お金

ライザップの急落は予測できた。CMとは違い財務はメタボ気味

財務諸表界の“リバウンド状態”や!

 最後に、キャッシュフロー計算書(略して“CS”= Statement of cash flows)を分析して、赤字転落が予測できた決定的根拠をお話しましょう。  CSについて、改めて復習しておきます。CSとは、簡単にいうと、「会社にどのくらいの現金があるか」ということがわかるデータです。  キャッシュフロー計算書において資金の流れは、「営業活動」、「投資活動」、「財務活動」の3つにわけて表しています。 「営業活動によるキャッシュフローがプラス」というのは、会社の事業(=パーソナルトレーニング事業)で稼げていることを意味します。  逆にマイナスだと、事業を続けるほど現金が出ていく状況です。ライザップの場合、「営業活動によるキャッシュフロー」は下記のように推移しています。 【ライザップの営業活動によるキャッシュフロー】 ・2016年…約8.6億円 ↓ ・2017年…約1.7億円 ↓ ・2018年…約0.87億円 ↓ ・2019年…約-104億円  一目瞭然。2016年から2019年にかけ、ライザップの「営業活動によるキャシュフロー」は急激に減少し、2019年時点で100億円を超えるマイナスに転換しています。まさに、財務諸表における“リバウンド状態”。せっかく好調だったムキムキの肉体が、見事にメタボ状態に陥ったことがわかります。  ただし、直近の「営業活動によるキャッシュフロー」はプラスに戻っており、少しづつですが、本業(=パーソナルトレーニング事業)で現金を稼げている状態に戻っていることがわかります。リバウンド後も、再び食事制限と筋トレで体型を取り戻しつつあるんですね。 「投資活動によるキャッシュフロー」はどうでしょうか。これは、会社の将来のために、ライザップがどれだけ投資できているかを示したものです。成長している会社の「投資活動によるキャッシュフロー」は通常、マイナスになります。ライザップの場合、勢いのあった2017年は「投資活動によるキャッシュフロー」はプラスでしたが、この頃は営業利益が鈍化していた状態(先ほどのサラリーマンの例えで言えば、本業の年収は上がっていない)だったので、事業拡大との「ゆがみ」を感じます。 「財務活動によるキャッシュフロー」も見てみましょう。こちらがマイナスだと、負債を減らしてお金を返しているため、現金が潤沢であることを示します。ライザップは、2016年~2019年の間、ずっと「財務活動によるキャッシュフロー」はプラスです。銀行から長期借入金や外部からの資金調達が多かった時期で、ライザップの成長は借金が支えていた状態だったのです。  つまり、借金をしてメルカリ転売のための服をリサイクルショップから仕入れた状態といえばわかりやすいでしょうか。もちろん、負債を活用し、成長を加速させるのは必要なことです。が、営業キャッシュフローが極端に小さい場合は、要注意なのです。  ちなみに、現在のライザップですが、経営再建を軌道に乗せた後は、再びM&Aなどの拡大路線にかじを切る可能性があるようです。さすがはダイエット事業を進める企業。自社の財務諸表がリバウンドしても、決して諦めない姿勢が伺えます。はたして、今度はゆがみのない形での成長ができるのか。  投資家の関心は高そうです。PLとBSを見るだけで、ここまで企業のイメージは変わるもの。経営者の資質のみに着目するのでもなく、PLとBSという無機質なグラフだけとにらめっこするのでもなく、その両者を観察することで「気になる企業の未来」はクリアになっていくのです。
経済アナリスト/一般社団法人 日本金融経済研究所・代表理事。(株)フィスコのシニアアナリストとして日本株の個別銘柄を各メディアで執筆。また、ベンチャー企業の(株)日本クラウドキャピタルでベンチャー業界のアナリスト業務を担う。著書『5万円からでも始められる 黒字転換2倍株で勝つ投資術』Twitter@marikomabuchi
1
2
3
おすすめ記事
ハッシュタグ