更新日:2023年04月19日 20:55
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「謝れ!SNSで晒すぞ!」…悪質クレーマー増加の根本原因

「すべての仕事は尊い」と過剰サービスしてきた日本企業

 そんななか、法政大学経営大学院の藤村博之教授と甲南大学文学部の阿部真大教授がそろって挙げた、「日本の企業風土」という問題に注目したい。藤村教授は、こう提起する。 <日本の企業は、顧客に対してできることとできないことの線引きを明確にせず、毅然とした対応を取る習慣をつけてこなかった。むしろ、質の同じような製品を作って横並びで競争する上で、付加価値をつけるために過剰なサービスを売りにせざるをえなかったのではないか。>(p.96) カスハラ そして、その悪習を放置してきたものこそが、「日本の勤労観」だと論じるのは、阿部教授だ。 <それは、労働契約の内容以上にサービスを行うのが美徳だという勤労観です。(中略) 時給千円の仕事だろうが、時給五千円の仕事だろうが、『すべての仕事は平等に尊いものである』というのが、その教えです。それが、すべての仕事に対して同等の職業倫理を求める価値観の背後にある。>(p.100)

元クレーマーが語る「正義感」と承認欲求

 さて、藤村、阿部両教授の分析を踏まえたうえで、かつてクレーマーだった50歳男性の発言を見ていこう。彼は、レンジで温めた弁当と、冷たい漬物やハムを一緒に入れられたことをしつこく店員に詰め寄り、挙句には店長まで呼びつけた。その際、彼の胸によぎっていたのは、愉快犯的な悪意とは真逆の正義感だったという。 <「私の場合は、あるべきことがちゃんとなされているかどうか。すなわち、相手に少しでも非があれば、その行動や態度がおかしいというところだけで、正義感が出てくるみたいなんですよね」>(p.107)  その正義感の行き着く先は、“自分が正しい”ことが認められ、場合によっては感謝されたいという承認欲求だ。 <なにぶん正義をふりかざしているので、『自分の言ってることは間違いじゃなかったんだ。正義だったんだ』と認められると、自分で満足するわけですよ」(p.107-108)
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クレーマーの根底にある心理
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音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4

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