2019年8月、ネプチューン・名倉潤が手術の“侵襲”によるストレスが原因のうつ病を公表したことは記憶に新しい。このように、それまで何の前ぶれもなく元気だった人が、意外な理由やきっかけで“急に”うつ状態になってしまう例は多いという。そんな「突然うつ」とも言うべき現象はなぜ起きるのか? 実態に迫ってみた。

精神を蝕む“突然うつ”の予兆は仕事のパフォーマンスに表れる
「突然とはいえ、前兆となるシグナルは必ず体から発信されています」
産業医の大室正志氏がそう指摘するように、“突然うつ”の実体験からわかったのは、発症の前段で何かしらの異変が心身に見られること。
そこで、
全国の40代男性2580人を対象にアンケート調査を実施、“うつ状態”になったことがあった500人に「心が折れる前兆としてどんな症状がありましたか?」と聞いた結果をもとに作ったのが下の「心が折れる前兆チェックリスト」。
★3つ以上当てはまる項目がある人は危険信号かも!
□ 朝起きられない・遅刻してしまう
□ 夜眠れない
□ 食欲が湧かない
□ 暴飲暴食がやめられない
□ 動悸・息苦しさを覚える
□ 注意力・判断力が落ちて
□ 仕事のミスが多くなる
□ 電話やメールがおっくうになって
□ コールバックや返信が遅くなる
□ 趣味であったものをやらなくなる
□ 休日は寝て過ごして終わってしまう
□ 無気力で何もやる気が起きない
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臨床心理士の緒方俊雄氏は次のように分析する。
「精神的なストレスが蓄積すると、まず『食欲が湧かない』(500人中72人)、『暴飲暴食がやめられない』(28人)など食欲に異変が起きることが多い。
次いで多いのが、睡眠に関する障害です。アンケートでも『夜眠れない』(178人)や『朝起きられない』(82人)と回答した人は多く、これらを放置すると自律神経失調症に繋がります。
交感神経と副交感神経のバランスが乱れれば、『無気力で何もやる気が起きない』(242人)や『動悸・息苦しさを覚える』(51人)などの症状に見舞われ、悪化するとうつ病へ至るというわけです」
自律神経失調症にほんの些細なトリガーが引かれただけで、“突然うつ”は簡単にやってくるのだ。
ほかに、疲労感、目まい、下痢などの体の異変や、無気力、不安感、疎外感といったメンタル不調の症状、「仕事のパフォーマンスが低下する」のも、重要な前兆のひとつだと大室氏は言う。
「『注意力・判断力が落ちて仕事のミスが多くなる』(102人)はもちろん、電話やメールがおっくうになり、コールバックや返信も遅くなりがち。仕事以外でも『休日は寝て過ごして終わる』が数か月間も続き、『趣味をやらなくなる』と、黄色信号が点滅していると判断していいでしょう」

効率的すぎる世の中がストレスのはけ口を奪った
また、人材育成コンサルティング企業代表の前川孝雄氏は職場での人間関係の変化に着目する。
「苦悩は孤立を生み、孤立は苦悩を深めるといわれるように、上司や同僚との雑談やランチの回数が減りはじめたら自己肯定感が低下している可能性が高い。ほかにも『居酒屋でビールかハイボールかすぐに決められない』など、選択や優先順位の判断ができない状態は危険水域と言えます」
かつては仕事の合間のスキマ時間がストレスのガス抜きとなっていたが、現代ではこうした時間が失われていると大室氏は語る。
「地方出張は日帰りが当たり前。新幹線や飛行機での移動中もみんな当然のようにパソコンを開いて仕事をしている。効率がよくなりすぎて暇がなくなり、ストレスの水位が上がりっぱなしなんです」
緒方氏は「特に40代以上の男性は、仕事一筋で自宅にいる時間を疎かにしてきたので、突然うつの前兆は職場で発見されやすい」とつけ加える。働く男性を“突然うつ”から守るには、職場の環境づくりが鍵を握っているのだ。