ライフ

子供部屋おじさんの秘密を知った僕らは、また余計なことをして――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第68話>

わかっていたんだ、でも引くことはできなかった

 おそらくではあるけど、おじさんの想定より大きい模型となったためか、机からはみ出した部分に木箱を置いて拡張していた。  その上にもしっかりと模型が置かれていたのだけど、高さが合わなかったのか、木箱の下に薄い本を置いて調整していた。その薄い本がエロ本だったのだ。そう、普通なら見つからないような場所にエロ本はあった。  どれだけの目ざとさ、どれだけの情熱があればこのエロ本を発見できるのだろうか。友人が只者じゃないことだけは分かった。 「持って帰ろうぜ!」  友人はそう言った。けれども、あの位置にある本は明らかに危険が危ない。絶対に危険が危ない。 「やめておいたほうがいい」  そう言ったが、友人は譲らない。 「この家の本なら何もって帰ってもいいっておじさんいってたろ。いけるよ」  友人はしごく正論なことをいい、木箱の下のエロ本を引き抜いた。そして“それ”が巻き起こった。 メキメイキメキメキメイキメキメキメイキメキメキメイキメキメキメイキメキメキメイキメキメキメイキメキメキメイキメキメキイ 「ギャー!」  引き抜いた瞬間、聞いたことのないような音を立てて模型が裂けていった。僕らの住むこの街の大地が裂けていった。その悪魔の裂け目は家や木々を飲み込んでいった。  僕らはエロ本を手に脱兎のごとく逃げ出した。とにかく逃げた。  隠れるようにしてあの廃墟に飛び込んだ。とんでもないことになったと怯えつつ、弾む息で持ってきたエロ本を読むと、すごくエロくて、ちんこが腫れたみたいになった。ミミズにおしっこかけなくともちんこが腫れたみたいになった。  あれからどうなったかは分からない。怖くて行けなくなったからだ。模型にとって致命的ダメージだったのか、それともたいしたことなかったのか分からない。ただ、もう二度と行けないので、僕らは失楽園し、またミミズを掘り返す日々に逆戻りしたことだけは分かった。  あんな楽しい場所を作れる。あんなすごい模型を作れる。僕にとって子供部屋おじさんはヒーローだった。  現代ではその“子供部屋おじさん”という呼び名を、ややバカにする感じで用いることが多い。けれども僕は決して揶揄する気にはなれない。なぜなら、僕にとってのヒーローという要素もあるが、それ以上に、模型を壊して悪かったなあ、という思いが生じてくるからだ。  そもそも人の生き方やライフスタイル、それをバカにするのはきっと良くないことなのだ。どんな部屋に住もうと僕らは僕らで、おっさんはおっさんなのだ。 ロゴ・イラスト/マミヤ狂四郎(@mamiyak46
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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