“脳トレ”実は科学的な根拠は殆ど無かった?
長年、「そういうものだ」と思い込んでいたことが、実はまるっきり違っていたという経験は誰にでもあるだろう。そこで、我々が普段当たり前のように思っていた定説をもう一度、洗い直してみたい
【からだ編】
エセ科学や誤解に基づく”定説”が横行!
― 脳科学 ―
<定説>脳トレで脳が若返る!
<真実>脳血流が一時的に増えるだけ
「脳の活性化」を謳い、ゲームやサプリなどを生み出した「脳ブーム」。簡単な計算を繰り返すことで、ボケ防止どころかコミュニケーション能力まで上がると話題となったが、第一線の研究者に言わせると「根拠はまったく薄弱」だとか。大阪大学教授の藤田一郎氏は、脳トレの問題点をこう指摘する。
「脳トレの根拠となる研究は、論理的に飛躍し過ぎています。よく出てくるのが『機能的MRI』。テレビなどで、脳の一部分が赤く光る映像を見たことがあると思います。確かに神経細胞が活動した結果、血流量が増加した部位が光るわけですが、それが『脳の性能や機能が向上する』という意味にはならない。最近では、脳の情報処理が効率化するほど、神経細胞の活動部位が小さくなるという研究結果もあるほどです」
同様に、よく聞く”右脳・左脳論”や”ヒトは脳を10%しか使っていない説”なども科学的根拠のないデタラメだという。こうした巷に流布する脳の迷信を、専門家は「神経神話」と呼び問題視。今年1月には、日本神経学会がMRIなどの結果を安易に一般化することへの警鐘を鳴らしたほどなのだ。
<定説>サプリメントで脳が活性化!
<真実>ほとんどが脳まで届かない
「脳神話」のもうひとつの大物が、脳に効くサプリメントだ。古くは「DHAを摂る・味の素を食べると頭が良くなる説」から「ギャバで神経の興奮を抑えてストレス軽減説」など、手を替え品を替え続々と登場。藤田氏は、「脳機能を飛躍的に変化させるサプリメントはまだ存在しない」と両断する。
「経口摂取した物質のほとんどは、脳に届く前に”血液脳関門”というチェック機構でシャットアウトされてしまいます。よしんば届いたとしても、神経伝達物質のやり取りを行うシナプスにまで到達する可能性は極めて低いでしょう」
脳に関するいい加減な仮説をもとに、意外性だけを売り物の番組を作ろうとする制作会社にコメントを求められ、絶句することもあるという藤田氏。騙されないためにはどうしたら良いのか。
「脳は誰にとっても身近な話題のため、かえってこのようなエセ科学も多い。テレビだから、書籍だからということで信用するのではなく、理屈と証拠がない話は、話半分で聞くようにすべきですね」
【藤田一郎氏】
大阪大学大学院生命機能研究科教授。理学博士。専門は視覚認識の脳メカニズムと大脳皮質の発達。神経神話に警鐘を鳴らす。著書に『脳ブームの迷信』(飛鳥新社)など
― 日本人の[定説]はウソだらけだった!【5】 ―
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