不利益があっても相手を許せるか、田中角栄の器の大きさとは?
―[魂が燃えるメモ/佐々木]―
いまの仕事楽しい?……ビジネスだけで成功しても不満が残る。自己啓発を延々と学ぶだけでは現実が変わらない。自分も満足して他人にも喜ばれる仕事をつくる「魂が燃えるメモ」とは何か? そのヒントをつづる連載第146回
田中角栄という政治家がいる。高等小学校卒という学歴にも関わらず、54歳で首相の座についた人物だ。彼はその膨大な知識と徹底した実行力で、「コンピューター付きブルドーザー」と呼ばれた。
角栄は義理と人情を知っていて、多くの国民から愛された。彼の人柄をうかがわせるエピソードは、密着取材をした番記者とのやりとりから、首脳クラスの会談まで、いくつも語り継がれている。
ロッキード裁判の最中、角栄の番記者をしていた早野透氏は「これを書いたらマズイかなぁ」というような角栄の呟きを記事にした。翌朝、角栄は「キミ、あれ、書いたな」と怒った。早野氏が「やっぱりまずかったか」と思っていると、角栄はそっぽを向きながら、「それで、きょう聞きたいことはなんだ」と聞いてきたという。
早野氏は著書『田中角栄―戦後日本の悲しき自画像―』(中央公論新社)でこのエピソードを披露した上で、「なみの政治家はこういうときによく『出入り禁止』などというが、角栄の懐の深さを改めて知る」と評価している。
政治家と政治記者は距離が近いにも関わらず、必ずしも親しい間柄ではない。政治家には「言いたくないこと」や「書いてほしくないこと」があるのに対し、政治記者はその「言いたくないこと」を聞きたいと思い、また「書いてほしくないこと」を書きたいと思っている。
「してほしくないこと」をされたら誰でも怒る。「絶交だ」と騒いだり、いつまでも根に持つこともある。しかし、角栄は一度怒ったあと、すぐにその怒りを収めて、「聞きたいことはなんだ」といつもの政治家と政治記者の関係に戻っている。
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