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クリスマスのおっさんに起きた奇跡、そしてペガサス――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第74話>

 昭和は過ぎ、平成も終わり、時代はもう令和。かつて権勢を誇った“おっさん”は、もういない。かといって、エアポートで自撮りを投稿したり、ちょっと気持ちを込めて長いLINEを送ったり、港区ではしゃぐことも許されない。おっさんであること自体が、逃れられない咎なのか。おっさんは一体、何回死ぬべきなのか——伝説のテキストサイト管理人patoが、その狂気の筆致と異端の文才で綴る連載、スタート! patoの「おっさんは二度死ぬ」【第74話】クリスマスのペガサス  街はクリスマス色に染まっていた。  師走のターミナル駅はどこか忙しなく、行き交う人もはっきりとした目的をもって足早に通り過ぎているようだった。  コンコースから商業施設へと続くガラス扉の先は少しだけ暖房が効いていて、さらにその先に同じようなガラスの扉がある。そこはガラスに囲まれたちょっとした空間のようになっていた。  この空間には、冷たい風が吹き抜けるコンコースから逃げるようにして避難してくる人が何人かいた。本来なら改札を抜けた先で待ち合わせるのが普通だが、そこは寒い。でもここはほんのり暖かい。この駅を知り尽くした人はここで待ち合わせをする。そんな場所だ。  何の待ち合わせだったか忘れてしまったが、その時も僕はそのガラス扉の先で誰かを待っていた。たぶん打ち合わせか何かだったのだと思う。  僕は待ち合わせに関して異常とも思える病的な思想を持っており、可能な限り時間に遅れないよう、1時間くらい前からスタンバイすることを心掛けている。どうやら、そうやって長いこと待つことによって、待ち合わせ相手が何であれ、これから来る相手のことを想う行為が好きみたいだ。  この少しだけ暖かいスペースには大きなクリスマスツリーが飾られていた。ピカピカと電飾が光り、備え付けられた銀や赤に輝くメタリック風の球にそれが反射して妙に賑やかだった。  ちょっと端のほうに寄って角度をつけると、ガラス戸の向こうには多くの人が待ち合わせる改札前の様子が見える。壁に寄りかかり、寒さに身を震わせながら誰かを待っているようだ。もしかしたらそのうち柱の影に隠れて恋人を待ちだす人がいるかもしれない。そんな雰囲気がたしかにあった。 「ツウはあんな場所では待たない。ここで待つ!」  心の中でそう呟いてやや勝ち誇った気になっていた。だってあそこは寒いし、ここはほんのり暖かいから。 「そうそう! あんな場所で待つのは素人よ、うんうん、ツウはここで待つ! 暖かいからな!」  僕の心の声を代弁するかのように全く同じことを大声で話しているおっさんがいた。一瞬、僕の心を読まれたのかと思って焦った。心の中で呟いているつもりで声に出してしまったのかとも焦った。けれどもそうではなかった。  みると、そこにはしっかりとおっさんが立っていた。  おっさんは、大声で叫んでおり、突如として独り言を大声で言ってしまう非常にリスキーな人かと思われたが、落ち着いて観察してみると、耳にハンズフリー通話用の機器をつけていたので、たぶんスマホで誰かと会話しているみたいだった。安心した。リスキーな人じゃなかった。 「待ってるんだから早く来いよ!」  おっさんは語気を荒げてそう言ってた。なかなか来ない待ち合わせ相手に業を煮やして電話をかけてしまった感じだろうか。けっこう荒い言葉遣いだった。もしかしたらリスキーな人なのかもしれない。
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おっさんはこの光の中に一人、投げ出されるのが怖かったのかもしれない
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