日本一のトヨタでさえ、世界では43位
星:トップが失敗しないような舵取りをすれば、会社全体が失敗しないような計画を立て、達成できそうな予算を立てることになります。スピード感をもって売上、利益を上げようとか、今、新しいことをやらないと将来的に大変なことになるといった危機感が薄いのかもしれません。
失敗を恐れて決断も非常に遅い。ダラダラと何も決めない会議をしたり、さまざまな課題がボトムアップで上がってきても、先延ばしにしてしまう。こうした「決めない、決められない」日本の悪しき商習慣も無関係ではないと思います。
写真はイメージです
――思いあたることばかりです。
星:結果的に何が起こったかというと、1989年には世界の企業時価総額トップ20に14社の日本企業がランクインしていたのが、2019年ではゼロ。日本企業のトップであるトヨタですら、世界の中では43位です。トップ20にどんな企業がいるのかというと、マイクロソフトにApple、アマゾン、フェイスブック、中国のアリババなど。わずか30年の間でビジネスモデルがすっかり変わってしまったわけです。
――いわゆる「プラットフォーム」を築いた企業が勝者となりましたね。
星:わずか30年ですが、この間に起きたのは「産業革命」と呼ぶべき変化だったと私は思っています。しかし、残念ながら日本の企業からは生まれなかった。そして、
世界の中で奈落(ならく)の底に落ちていったというのが、“いま”なのかなと思います。
にもかかわらず
「日本は素晴らしい、まだ大丈夫」的なお気楽な風潮があります。製造業が経済の中心であった時代は日本の勤勉さ、高品質とその管理、継続した改善による高い生産性が世界経済を引っ張りました。その後のサービス産業の台頭の中においては、イノベーション、スピードなどの意識不足、コミュニケーション能力不足からグローバルプラットフォームになる会社が現れなかった。
私はその時代の変化を、20年にわたる日本企業の海外勤務、および10年間のアマゾンにおいて直に体験しました。
――日本は今や、1時間当たりの労働生産性がOECD加盟36ケ国中20位(2017年)。世界競争力ランキングは過去最低の30位(2019年)に転落してしまいました。
星:世界の大変化に対して、日本の経営者も気づいてはいたと思うんです。ただ、決断が非常に遅かった。先延ばしにしている間に、世界の競合他社がどんどん台頭してきて、そのスピード感で負けてしまったということだと思います。
アマゾンで巨額損失を出した「ファイアフォン」の失敗
――うまくいかなくなって、失敗しないようにとチマチマして、チャンスを逃して……まさに、貧すれば鈍するです。
星:早い決断で回していくと、当然、失敗することはあります。ユニクロの柳井正さんも「1勝9敗」と言っていますが、決断が後手に回っていたら成功も生まれません。アマゾンだって、たくさん失敗しているんですよ。
――そうでしたっけ?
星:いちばん大きな失敗といえば、2014年に参入した携帯電話事業ですね。「ファイアフォン」を覚えていますか? 鳴り物入りでローンチしたのですが、結局、ほとんど売れなかった。大量の在庫を抱えて、1億7000万ドルの損失を計上し、撤退しています。
fire PHONEはわずか1年で販売終了に。撤退の決断も速い
――1億7000万ドル!?(約187億円)
星:しかし、ファイアフォンの失敗があったからこそ、キンドルのタブレットや動画ストリーミング端末「ファイアTV」やAIスピーカー「アマゾンエコー」につながっている。当時、最高のテクノロジーでファイアフォンを作り、テクノロジーは培われて次の開発に活かされたわけです。
――失敗したプロジェクトの責任者や社員は飛ばされたりしないんですか?
星:当然、責められないことはないです。ただ、責任を負わされて、
有無を言わさず飛ばされるということはありません。問われるのは「なぜ失敗したのか」という、その理由、その学習が次に活かすことができるかどうかということです。新規事業だけでなく、たとえば、予算の数字に未達成だったときも、理由が求められます。
アマゾンに根付いている文化のひとつでもありますが、失敗の原因をキチンと究明して分析して、次のステップへ生かす方策を示す。それができれば、トライ&エラーはOK。むしろ、リスクを恐れて何もしないのが、アマゾンでは許されないことです。
――無理目でも挑戦する、でっかいことをぶち上げる。アマゾンだけでなくGAFAが天下をとったというのも、そういうところなのでしょうか。
星:経営者だけでなく、投資家もレベル感が違うのは確かですね。考え方が突き抜けている。発想力の違いはあると思います。
ただ、GAFAに勤めている人がみんな、突き抜けた発想力を持っているわけじゃありません。会社が、発想力を養う仕組みをきちんと作っている。イノベーション、革新的なことを考えるように、会社も仕向けてるんですよ。