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映画「カツベン!」で再注目、令和に生きる現役“活動弁士”に密着

 サイレント映画に説明を加え、新たな命を吹き込む「活動弁士」が、登場から120年が経ち再び脚光を浴びている。昨年末から公開されている周防正行監督作品「カツベン!」が、日本映画の黎明期を支えた活動弁士という存在に光を当てた。  主演を務める俳優・成田凌さんが、弁士を目指す若者を好演。憧れの世界で待ち受ける幾多の困難にもめげず、夢を叶えようと腐心する姿を笑いあり涙ありのエンターテイメント作品に仕上がっている。
活動弁士

無声映画(サイレント映画)の上映中に傍らで解説する「活動弁士」

 そんななか現役弁士たちは、この勢いを逃すまいとファン拡大へ知恵を絞っている。はたして再ブームは来るのか!?

不朽の名作「雄呂血」に挑戦

写真左から、片岡一郎さん、上屋安由美さん、山内菜々子さん

写真左から、片岡一郎さん、上屋安由美さん、山内菜々子さん

 業界最年少弁士・山内菜々子さん(33)の第20回独演会がこのほど、都内で開かれた。兄弟子の片岡一郎さん(42)の後押しを受け、2か月に1回開いてきた。節目を迎える公演で選んだ演目は、バンツマの愛称で親しまれた名俳優・阪東妻三郎出演の「小雀峠(こすずめとうげ)」(1923年)、「雄呂血(おろち)」(1925年)。後者は不朽の名作としても知られ、どのシーンに力点を置くかで解釈に違いが生まれる。その奥深さを表現できるかは弁士の腕に懸かっている。
雄呂血

「雄呂血」SPレコードジャケット(1926年頃)片岡一郎さん提供

進軍

「進軍」チラシ(1930年)片岡一郎さん提供

 阪東演じる主人公の久利富平三郎は、けんか早い性格が災いして度重なる誤解を受けるが、同情を寄せる人はほとんどいない。周囲から疎まれ、次第にならず者と呼ばれる男の悲哀に満ちた物語だ。山内さんは「(弁士にとっては)シェイクスピア作品をやるような意気込みで臨む作品。私なりの『雄呂血』を見せたい」と背筋をピンと張り気合い十分。 活動弁士 ピアニスト・上屋安由美さんの伴奏に合わせ、スクリーンに映し出される映像に吹き込んでいく。主人公はもちろん、漢学者、料理屋の娘など登場人物全ての台詞を1人でする。  性別や年齢に応じて声色を使い分けるだけではない。たとえば、恋心を抱いた奈美江に「ならず者に等しきけんかをする者は、大嫌いだと分かっておいてくださいませ」と拒絶され、主人公の平三郎が「ようく分かっております」と肩を落とす場面。山内さんは、ゆっくりと重苦しい語り口で、好きな女性からフラれた男の悲しさを表現する。  一方、余計な説明を省き、映像とピアノの旋律で場面展開させることも。奈美江やその夫が悪さを企む親分に捕えられたことを知り、平三郎が身を挺して逃がす終盤の見せ場。逃げ遅れて役人に捕まり、民衆から「ならず者が捕まった。これで安心だ」と喝采が上がる。対照的に、平伏して涙を浮かべる奈美江とその夫。感情移入しやすい部分には、敢えて説明を加えない。そんなさじ加減を一手で担うのが、山内さんら弁士たちだ。

悲哀の物語に見た一筋の救い

「ずっと報われなかった平三郎だけど、痛みを伴いながらも彼の世界は広がっていった」と語る山内さん。決してハッピーエンドではないかもしれないが、愛する女性への想いは、決死の覚悟で伝わったのではないか。悲哀に満ちた物語の中に見つけた一筋の救いを、観客に伝えたかった。  公演を観た兄弟子の片岡さんは「自分なりの解釈と物語の展開をリンクさせる工夫が足りない」と課題を挙げる。登場人物への共感を与えられる節回しへ改善が必要だと指摘を受け、山内さんはしばらく考え込んだ。
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これからの活動弁士=YouTuber?
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