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「パチンコをやる自由」も保障される…感染症拡大を止められない「人権擁護」という壁

日本国憲法と「ロックダウン」(都市封鎖)

自衛隊

自衛隊公式Twitterから

 日本国憲法は国民の人権を強く保障しています。9条の戦争放棄の条文が有名ですが、例えば憲法13条。ここには「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と書かれてあります。  緊急事態宣言の「外出を控えてほしい」という要請は「自由に行動したい」という人権侵害となる恐れがあります。憲法13条の条文どおりなら、「公共の福祉に反する場合」しか自由を制限できません。刑務所で収監された囚人は行動の自由を制限されています。憲法解釈ではこの例がわずかな人権制限の一つです。憲法論争は複雑で難しいところがあります。「国民の健康と生命を守るため」に個人の自由を制限できるのかは難しい判断になります。もちろん、自衛隊もそこで群衆を制する権限はありません。  この新型コロナウイルスでの緊急事態宣言では政府の持つ権限の弱さが露呈しました。今後の憲法論争でもこの問題は考えていかないといけないと思います。  このような非常時にすら感染予防策を徹底できない現状は大いに不安です。「病気にはなりたくないけど、生活費は稼がなきゃならないし、遊びにも行きたい」という人もたくさんいます。国民の自発的な行動に頼るだけでは難しいと思います。

外国の軍隊や警察が持つ権限

 外国の軍隊の場合、国民全体の健康のために各々の自由を制限できる強い権限を平時から国が持たせています。非常事態には、外出禁止令に従わない人には罰金を科したり、投獄したりできる国も多数です。だから、警察や軍隊がバリケード等で地域を封鎖できるのです。  ウイルスに足はありませんから、人の活動を制限すれば病気を抑え込むことができます。中国の武漢ではバリケードをつくって警察や軍が都市を封鎖しました。市民の行動を携帯から逐一報告させ、頻繁な体温計チェックを義務づけるというような完全な行動監視システムをつくり上げました。こういった国民の行動監視と隔離により、中国は感染拡大を封じ込めたと報告されています。  一方の日本では、新型コロナウイルスの緊急事態宣言後も、政府が目標とした「接触機会の8割削減」は達成できそうにありません。接触機会を2週間8割削減すれば感染はピークアウトを迎え、減少に転じることができると言われていますが、それが無理となればこの状況は長引きます。  また、2週間で緊急事態宣言が解除できなければ、経済への悪影響はさらに拡大します。全国で病床数が不足しています。東京の緊急搬送の受け入れ拒否数が増えたという報道もありました。  悲しいことですが、日本が国民を守るために強制力を振るえない国だということがはっきりわかってきました。  ダイヤモンドプリンセス号のときは乗客も乗員もルールを守って14日間過ごしてくれましたが、もし船内で「船を下りたい!」と暴動が起きていたら自衛隊は止められなかったと、軍事評論家の数多久遠氏がJB pressの記事で語っています。災害派遣時の自衛隊には、指示に従わない人を強行に止める権限はないのです。いざというときに発揮すべきリーダーシップ(=権限)が弱すぎる国の下では、国民は右往左往するしかありません。  この新型コロナウイルスを封じ込めるためにも、緊急事態宣言下での国の「権限」について議論を始めてもらいたいものです。
おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot


自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う

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