仕事

42歳日雇い男が“パパ”に戻った日。感じる成長、切ない気持ち

子供との別れ際に…

家族 店を出ると、好きな漫画やゲームなどの話をしながら帰路についた。その頃には絵里も昔のようによく喋るようになっていた。そして最初の待ち合わせ場所であった2人の家の最寄り駅に到着する。家のほうに向かって歩いていると、その途中にあった歩道橋の前に来たところで健人が言った。 「もう家の近くだからここまででいいよ」  母親に僕を家に近づけないように言われているのかもしれない。僕のほうも元妻やその夫と鉢合わせて嫌な思いはしたくなかったので、そこで別れることにした。 「じゃあ、またな」 「うん、また」  2人は歩道橋を上がっていく。 「ちょっと待って」  僕はその背中に向かって呼びかけた。すると、絵里だけが足を止めて振り返る。 「ん、なに?」 「いや、別になんでもないけど……」  彼女に向かって両手を広げた。抱っこするのも嫌がられたのだから、これも嫌がられるかもしれない……。そう思ったのだが、彼女は階段を下りて僕の胸に飛び込んできた。僕はその小さな体をぎゅっと強く抱きしめた。彼女は階段の数段上にいたので、ハグするのにちょうどいい高さになっていた。 「じゃ、元気でな」 「うん」  絵里は僕から離れると、健人を追いかけるようにして夕闇に染まる階段を勢いよく駆けあがっていった。<文/小林ていじ>
バイオレンスものや歴史ものの小説を書いてます。詳しくはTwitterのアカウント@kobayashiteijiで。趣味でYouTuberもやってます。YouTubeチャンネル「ていじの世界散歩」。100均グッズ研究家。
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