仕事

客の暴言に耐え忍ぶコールセンターでの日々…僕はサンドバッグじゃない

 コールセンターのオペレーターといえば、非常にストレスの多い過酷な仕事というイメージがあるのではないだろうか。僕は2か月だけコールセンターで派遣で働いたことがあるのだが、実際にそのとおりだった。
小林ていじ

日雇い派遣の仕事などで食いつなぐ筆者・小林ていじ(撮影/藤井厚年)

 それまでは日雇い派遣で毎日異なるさまざまな仕事をやっていたのだが、もう少し安定した生活を送りたいと思うようになった。そこでそれまで利用していたのとは別の派遣会社に登録し、相談すると、すすめられたのはコールセンターのオペレーターだった。  この仕事の悪い評判は知っていたので、少し抵抗を感じた。が、2か月だけの短期ということだったので、それで話を進めてもらうことにした。すると、簡単な面接をしただけですぐに採用が決まり、早速、翌週から働くことになった。

相手の質問自体が理解できない…

コールセンター

“ストレスの多い仕事”というイメージもあるコールセンターのオペレーター(※画像はイメージです。以下同)

 僕と同期で入社したオペレーターは約20人いた。最初の1週間は座学研修に費やされた。ここでの業務は客からの電話を受けるインバウンドと呼ばれるものである。ある通信事業系のサービスについての客からの問い合わせに回答する。  その回答はパソコンのデータベースで調べて導き出せばいいのだが、それにもそのサービスについての基本的な知識は必要になる。そこでまずはそのあたりを重点的に叩き込まれた。  2週目からはOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)が始まった。ヘッドホンとマイクが一体になったヘッドセットを付け、ペアになって実際に客からの電話を受ける。そしてひとりが客と話し、その間にもうひとりがデータベースで調べるのだ。  僕は茶髪ギャルの香澄(仮名)とペアになり、僕から客と話すことになった。 「お電話ありがとうございます。○○○○お客様サービスセンター、小林がお受けいたします」  僕の本来の声はかなり低いのだが、声帯をきゅっと絞るようにして高い声を出して応答する。客は早口で質問をする。聞き慣れない専門用語が多く、回答はおろか、質問自体があまりよく理解できなかった。とりあえず電子メモパッドに要点をメモし、電話を保留にして香澄に訊いた。 「どう? わかった?」  僕が話している間に彼女が調べてくれているはずだった。 「うーん、ダメだ。そもそも質問がよくわかんないし、データベースのどこを見ればいいのかさっぱり」 「だよね……」  OJTでは困ったときに助けてくれる存在としてベテランのオペレーターが3人配置されていた。僕はそのうちのひとりに手を挙げて助けを求めた。その後もほとんどベテランのオペレーターに頼りっぱなしで業務は進んでいった。他の新人オペレーターも同様だった。  昼休みは香澄といっしょに社員食堂で昼食を食べた。 「小林さんはここの前はなんの仕事やってたの?」  彼女が訊いた。 「日雇いとかいろいろ。ライターの仕事をやっていたこともあるけど」 「へー、ライターか。どうしてそれは辞めちゃったの?」 「心にもないことばかり書かされるのに嫌気が差した」 「そっか。でも、なんかもったいないね」 「いいんだよ。ライターの仕事にはもうなんの未練もない」  とはいえ、決してこのような仕事をやりたかったわけでもないのだが……。

客への口答えは絶対に許されない

クレーム

客から理不尽な暴言を吐かれることも日常茶飯事だった

 ペアになってのOJTは次の日からも続けられた。そしてトレーナーにその仕事ぶりをチェックされ、もう大丈夫だろうと判断された人からOJTを終えて独り立ちしていった。が、その頃から急に仕事に来なくなる人もポツポツと出はじめていた。精神的にかなりきつい仕事だったのである。  僕にとっていちばんきつかったのは客からなにを言われようと一言も言い返せないことだった。もし少しでも口答えしようものなら、通称、お説教部屋というところに連れていかれて再教育を施されるか、もしくはその場で即クビになるのだという。  その日はヒステリックな女性客から電話を受けた。相手の言っていることが理解できず、何度か聞き返すと彼女は声を荒げて言った。 「なんでそんなこともわかんないのよ!」 「申し訳ございません」 「あんたと話しても無駄。他のわかる人にさっさと代わってよ!」  てめえ、なんだ、その言い方! カッと込み上げてくる怒り。しかし、僕はそれを飲み込み、平然を装って他のオペレーターに代わるしかなかった。その日の仕事終わり、香澄に思い切り愚痴をこぼした。 「もうやってられるか、こんなクソみたいな仕事。一言も言い返しちゃいけないってなんだよ。ふざけんなよ」 「本当だよね。私もちょっとメンタルやばいわ」 「これじゃあサンドバッグと同じじゃないか。こんなの絶対におかしいって」 「だけどさ、2か月だけの短期だし、最後までいっしょに頑張ろうよ。明日はシフト入ってる?」 「入ってる」 「私も。明日もいっしょに頑張ろ」 「明日は風邪を引いたってことにして休むかもしれない」 「そのときはぶん殴るよ」  それからしばらくして僕も香澄もOJTを終えて独り立ちした。とはいえ、僕はその後もベテランのオペレーターに頼ることが多く、客から理不尽な暴言を吐かれることも日常茶飯事だった。あまりにストレスフルな勤務の中で昼休みに香澄と話すことだけが唯一の心の支えになっていた。
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彼女は突然いなくなってしまった
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