仕事

42歳日雇い男が“パパ”に戻った日。感じる成長、切ない気持ち

 僕はバツイチの独身なのだが、別れたタイ人妻のソム(仮名)との間には2人の子供がいた。その2人とも元妻に親権を取られていたのだが、日雇い派遣で生活していたある日、約1年ぶりに再会できることになった。
小林ていじ

日雇い派遣の仕事などで生活費を稼ぐ筆者・小林ていじ(撮影/藤井厚年)

妻と離婚後、2人の子供と久しぶりの再会

 突然、元妻のソムからラインでこんなメッセージが届いた。 「久しぶり。元気?」  なんだ、馴れ馴れしい……。そう苛立ちを感じながらも、もしかしたら子供のことでなにかあるのかと思い、一応、素っ気なく返事をした。 「なんだよ」 「今どこ住んでるの?」 「おまえになんの関係がある」  しかし、その次のメッセージにぎょっとなった。 「パパ。絵里だよ」  ソムではなく、娘の絵里(仮名)だったのである。 「なんだ、絵里かよ。それなら最初からそう言えって」 「今どこ?」 「東京にいるよ」 「私も東京にいるよ」  絵里はもう小学2年生になっていた。まだ自分の携帯は持たせてもらっていないので、母親の携帯を借りてそのアカウントからラインをしているのだという。しばらくラインでやり取りし、今度の日曜日に絵里の3歳上の兄である健人(仮名)も交えて3人で会うことになった。  僕がソムと別れたのは彼女の不倫が原因だった。タイに住んでいたときに他の日本人の男とできていたのである。離婚後、彼女はその不倫相手と再婚し、子供2人を引き取って日本に移住していた。その後、僕も日本に戻ってから子供には一度だけ会わせてもらったのだが、それ以降は会わせてもらっていなかった。

いつの間にか流暢な日本語を話せるように…

六本木

※写真はイメージです(以下同)

 当日、僕は指定された地下鉄駅の出口近くで待った。約束の時間を少し過ぎた頃に遠くのほうから2人の子供がてくてくと歩いてくるのが見えた。健人と絵里だった。 「おう、久しぶり」  健人はかなりぽっちゃりとした体型になっていた。 「おまえ、ちょっと……というか、かなり太ったんじゃないのか」 「うるせえな。これでも少し痩せたんだよ」  約1年前に会ったときはほとんど日本語を話せなかったのに、もう流暢に日本語を話せるようになっていた。これまで子供とはタイ語でしか会話をしたことがなかったので、なんとなく妙な感じだった。  電車で六本木に向かった。そこで映画を観る予定だった。その車内で健人に日本に来てからの生活について話を聞いた。やはりはじめの頃はほとんど日本語を理解できず、特に学校ではかなり苦労したという。 「絵里は大丈夫だった?」  健人の隣の席に座っていた絵里に話を振った。 「うん、大丈夫」  彼女はそれだけ言葉を返した。もともとはよく喋る明るい女の子だったのだが、やけに口数が少なくなっていた。  六本木の映画館では健人のリクエストでディズニーのアニメ映画を観た。上映中、僕はその映画の内容よりも絵里の様子のほうが気になっていた。健人はポップコーンを食べながらスクリーンに釘付けになっていたのだが、絵里はほとんど無表情であまり楽しんでいるようには見えなかった。スクリーンからの青白い光が彼女のそんな横顔をちらちらと照らしていた。 「映画どうだった?」  上映終了後に絵里に訊いた。 「まあ、面白かったけど、あれは健人の観たい映画だったし……」 「じゃあ、次は絵里の行きたいところに行こう。どこ行きたい?」 「んー……」  彼女は黙り込んでしまう。とりあえず3人で六本木通りを歩いた。しばらくして僕のほうからまた訊いた。 「絵里、大丈夫か?」 「大丈夫ってなにが?」 「歩き疲れたなら抱っこするよ」  僕がそう言って絵里を抱っこしようとすると、彼女はそれをバッと振り払う。 「まじでやめて。恥ずかしいから」  タイに住んでいた頃は彼女のほうからよく抱っこをせがんできたものなのだが……。僕は小さくため息をつく。久しぶりに再会できたのだから、絵里とももっといろんなことを話したり、じゃれあったりしたかった。が、会えない期間に彼女との間に深い溝ができてしまったような気がした
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あの頃と変わらない笑顔
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