クラスター発生の永寿総合病院、医師の挑戦「患者と家族に対してできること」
病院自体がクラスター(集団感染)化した東京都台東区の永寿総合病院医師が、終末医療の現場でテレビ電話面会を導入しようとクラウドファンディングを始めた。発案者は、がん診療支援・緩和ケアセンター長の廣橋猛さんだ。病状によって面会できないケースが多いことから、患者とその家族がオンラインでつながる機会を作ろうとタブレット端末の購入資金に充てる。
緩和医療専門の廣橋医師が、アフターコロナを見据えてテレビ電話面会の必要性を訴えている。勤務する永寿総合病院では院内感染が発生し、感染者は患者と職員を含め200人以上を超えた。入院患者40人余りが亡くなる事態となり、3月下旬から外来診療や入院の受入を一時停止。病院内の感染者の把握や防止対策を徹底し、5月上旬以降は新たな感染者が確認されなかった。既に外来診療を再開し、以前の態勢に戻りつつある。
ただ、生命を脅かす疾患に直面している患者とその家族に対しての「緩和ケア」現場では、コロナ禍で変化が余儀なくされている。
日本緩和医療学会などが全国の緩和ケア病棟を対象に実施したインターネット調査(5月中旬)によると、面会制限があると答えた病院が90%以上を占めた。面会以外のコミュニケーションの支援策で「特に何もしてない」との回答が30%、「テレビ電話などでのコミュニケーションを支援している」が55%。コロナ禍でもたらされた思いも寄らぬ状況に、各病院で対応の違いがあることがうかがえる。
緩和ケアに長年携わってきた廣橋医師に、今回メールを通じて取材に答えてもらった(以下、一問一答)
――永寿総合病院の面会制限はいつ頃から行われましたか?
廣橋医師:新型コロナウイルス感染が懸念され始めた2月から、面会制限が行われました。面会できない状況の患者さんが増えてきた頃から、代替のプランとしてテレビ電話面会を思いつきました。実際に患者さんとそのご家族に許可を得て7、8例試してみました。ぐったりしていた患者さんが、画面越しでご家族の顔を見ることで笑顔になってくれました。
――テレビ電話面会を通じてやり取りすることについて、ご家族の反応は?
廣橋医師:患者さんの様子を直接見られないことで、どこまで悪くなっているのか受け止めが難しくなります。いつの間にか亡くなってしまった…という結果になってしまい、「何もできなかった」と忸怩たる思いを抱く方も少なくありません。面会ができないことは緩和ケアにとって非常に大きな問題です。
――今回クラウドファンディングを行うことにしたのはなぜですか?
廣橋医師:病院だけではなく、世の中に必要性を理解してもらうためにクラウドファンディングにたどり着きました。機器を自腹で揃えるのでは普及しないと思ったからです。
――テレビ電話面会の課題は何か感じていますか?
廣橋医師:ご家族側がうまく使いこなせるか心配です。高齢の方など難しいケースもあり、今後工夫していく必要があります。病棟の中にWi-Fi環境がない施設もあるため、SIMカードが使用できる機種にします。LINEやSkypeを利用する予定です。
既に1000万円以上の寄付が集まっており、全国の約80施設で配布されることが決まっている。クラファン終了となる今月末までに2000万円集めることを新たな目標に据えた。達成されれば、一般病棟や老人ホームなどを含めた100施設に配られる。
アフターコロナ見据え、必要性訴え
テレビ電話面会「患者にもその家族にも大きなメリット」
世の中に必要性を理解してもらいたいとクラファン実施
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新聞記者兼ライター。スター・ウォーズのキャラクターと、冬の必需品「ホッカイロ」をこよなく愛すことから命名。「今」話題になっていることを自分なりに深掘りします。裁判、LGBTや在日コリアンといったマイノリティ、貧困問題などに関心あります。Twitter:@hokkairo_ren
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