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日本が想定している「仮想敵国」とはどの国を指すのか?

日本は「仮想敵国」を想定していない

米中 平成26年に我が国は外交と防衛の基本方針を立てる「国家安全保障会議(NSC)」と事務方である「国家安全保障局(NSS)」を創設しました。これは安倍政権の大きな成果ですが、それまで日本には外交と防衛を一括して政策として考える国家安全保障を担う機関がなかったという事実に驚きます。  なぜそんなことになったのか?  大雑把に説明すると「内外世論を気にして仮想敵国を想定しないため、具体的な敵国の軍事力や軍事侵攻を想定して対処する防衛計画を立てることができない。仮想敵国すらないから、予算内でやれることだけやっとけば?」というのが我が国の姿勢なのです。  日ロ戦争までの日本は、伊藤博文ら元勲たちが、自明の理として外交と防衛を統合し国家安全保障戦略を考えてきました。その元勲たちが表舞台から去った後、日本は迷走し始めます。それでも戦前の日本は仮想敵国を想定していましたが、戦後は仮想敵国を想定してないんですよ。領海や領土上空に何度も弾道ミサイルを撃ち込み、日本人を拉致した「北朝鮮」ですら、仮想敵国ではないのです。  仮想敵国を指定してないわけですから、その国がどのようなかたちで我が国を侵略するのか、綿密な情報に基づいた具体的な演習や訓練をしているとは言えません。その国民の軍事力に対して勝てる軍事力を補強しようという検討もしません。  中国、北朝鮮、ロシアは虎視眈々と我が国の領土領海を狙っていますが、それらの国が我が国に対して軍事侵攻するという前提で議論をしなければ「今の自衛隊の軍事力で大丈夫か?」という評価はできません。  財務省が掲げる「GDP比1%程度」という枠がありますが、 その程度の軍事力しか日本は維持しないわけで、そこには「もし、中国・北朝鮮・ロシア等が軍事侵攻してきたら、どのような形で応戦し、勝つのか」というシナリオはありません。国防という観点からは「現実を見ない自己完結した空論」としか言いようがありません。つまり、何かあればそのときは「お手上げ」なのです。 「恐ろしい敵は見なかったことにすれば怖くない」ということでしょうか? 米軍との同盟への過度の依存も拍車をかけました。「何かあっても在日米軍が守ってくれる」などと一方的な期待を米国にかけても無駄です。  かわぐちかいじさんの人気コミック『空母いぶき』(小学館)では、平和な与那国島にある日突然、中国の空母艦載機が攻撃を仕掛けてきます。島は占拠され住民は全員拘束、自衛隊による奪還作戦が開始されるわけですが、これはありえない空想の物語なのでしょうか? 軍事侵攻が始まるときは、このように「ある日突然、何の予兆もなく」訪れるのではないかと私は思います。  また、そもそも『空母いぶき』では中国軍は島民を人質として丁重に扱い、自衛隊も正面から対峙して戦いましたが、いざ現実に侵攻されたとき、9条に縛られ武器弾薬の使用が制限された自衛隊と丸腰の私たちにどれだけの抵抗ができるのでしょうか。  米中の間にこれまで以上に不穏な空気が漂っていますが、このまま目と耳を塞ぎただ平和を祈るだけではあまりにも無力すぎます。
おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot


自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う

日本の安全保障を担う自衛隊員が、理不尽な環境で日々の激務に耐え忍んでいる……

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