予想外のおにぎりに癒された「台東区鶯谷」の夜<清野とおる×パリッコ>
「東京都北区赤羽」シリーズで知られる漫画家、清野とおると、酒場ライターのパリッコが、「赤」以外の色の名前がつく駅や街でただただ飲み歩くだけの当連載。
今回の舞台は「鶯谷」。 金町、戸越銀座、お花茶屋。「金」、「銀」、「茶」ときての、突然の「鶯色」。若干色のつく駅名のネタに困り始めた感はあるけれど、それ以外は平常運転でお送りします!
※編集部注:取材は2019年11月に行われました。お店や街の情報はいずれも当時のものです。なかなか飲みに行けない日が続いていますが、みなさんも新型コロナが落ち着いてからぜひ訪れてみてください。
パリッコ(以下、パリ):清野さん、どうですか鶯谷は?
清野とおる(以下、清野):エロと酒! って感じの、愚直な印象の街ですね。改札出た瞬間というか、ホームに降り立った瞬間から漂ってくる猥雑な空気感がワクワクします。
パリ:こんなにも駅の周りにラブホテルが密集している駅、そうそうないですよね。僕の大好きな24時間営業の居酒屋兼定食屋「信濃路」を含む数軒の飲み屋が並ぶ、北口駅前の飲み屋街も味わい深いし。ただ、そういう街だから、そこまで縁が深いわけでもないんですよね。底知れない謎が眠っていそうで。
清野:ですね。とりあえず徘徊してみましょう。
あてなく街を徘徊する我々がまず出会った一軒の飲み屋、それが「磯次郎」。
外観はプレハブ小屋を店舗に改装したような簡素な佇まい。それでいて、「菊姫&ナチュラルワイン」を激プッシュ。で、店名が「磯次郎」。
強烈に興味を引かれずにはいられない。
「一軒目はここしかないですね!」と、カオスな雰囲気を期待し、ワクワクしながら入店した我々だったが、入ってみてびっくり。ものすごくスタイリッシュで清潔な店内なのだ。間違いなくちゃんとした美味しいものがいただけそう。これにはいい意味で肩透かしをくらった。
メニューに「チョイ飲みセット」を発見し、清野氏は日本酒「菊姫」、編集部井野氏は赤ワイン「Ch ヴィニョル ルイジアンヌ」、パリッコは白ワイン「Ch ヴィニョル アントルドメール」をチョイス。これに小鉢のおつまみが一品ついて900円だという。
清野:完全に当てずっぽうで入った小屋みたいな居酒屋で、ワイングラスに注がれた日本酒を飲みつつ、小洒落た料理を食べている。「あれ? 今どこにいるんだっけ?」って、いきなり混乱してます。
パリ:要素が多くて楽しいですね、この店。3人で飲んでて、それぞれ赤ワイン、白ワイン、日本酒で乾杯するとか、人生で初めての経験ですよ。
清野:いきなり「君らが思ってるような猥雑なだけの街じゃないから。こういう側面も、あっから」「あ…すいません…」って感じが(笑)。
パリ:うんうん。ワインもすごくちゃんとした味だし、あとこのキッシュ? みたいな小洒落た料理、めちゃくちゃうまくないですか!?
清野:「菊姫」も最高ですよ!
パリ:外観のプレハブっぽさと「磯次郎」という名前に惹かれて入ってみたのに、こんなにいい店だなんて……。
清野:ちゃんとした人を鶯谷でおもてなす機会があれば、この店始まりのこの店解散にしようと今、決意しましたよ。
パリ:ちゃんとした人を鶯谷でおもてなす機会、あるかな(笑)。
要素の多い隠れ家的名店と出会う
1978年東京生まれ。酒場ライター。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。ライター・スズキナオとのユニット「酒の穴」としても活動中。X(旧ツイッター):@paricco
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