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<純烈物語>コロナ禍の後上翔太は“2日目の休み”に違和感を覚え「やるしかない」に向き合った<第71回>

末っ子は末っ子で、表に出ないところで闘っている

 話を聞くうちに、周囲が期待する中でちゃんと秀才という役どころを務めていた頃と変わっていないのだと思えた。大人になって、仕事としてやる場合もそれを形にするための勉強は怠らない。1週間後にクイズ番組へ出るとなれば、収録当日までの6日間はひたすら準備に没頭する。  確かに後上は酒井一圭、白川裕二郎、小田井涼平のようなバックボーンはない。この秋、FODで配信が始まった『純烈ものがたり』に関しても、その演技っぷりがしばしネタとされる。  だが、無理なものは無理と現実的に受け入れるところから始められるのが、後上翔太という人間でもある。末っ子は末っ子で、表に出ないところで闘っている。  まだ、自分の中になんとなく不安が漂っていた段階では、家にこもる中で週に1、2回はメンバーと顔を合わせたり、事務所に足を運んだりしていた。そこで慣れ親しんだ光景と感覚がふと蘇った。  350日、時間と気持ちを共有してきた関係性を持つ者同士の独特な空気感を、こうした形で味わうことにより世の中の実像が意識の中へと刻み込まれていった。4人とも、純烈一筋でやってきたのにそれができなくなった現実を通すと、よりリアルに世間が見えてくる。 「テレビをつけたら、いろんな“苦しい”に触れるじゃないですか。それもまた、世間は普通なのに自分は仕事がなかったデビュー当時とまた違うんだなと思いましたよね。みんながキツい中で、自分も違和感がある。それは自分だけが置いていかれた感とも、またちょっと違う。  たとえばネットサイン会をやると、ネットに不慣れであろうおばちゃんとかが一生懸命コメントをくれたりしているのがわかる。純烈に会えなくてシンドいからこそ、そこまでしてでも気持ちを伝えようとしてくれている。そんな世の中なんだよなあってなりますよね。その上で、そういう形でもふれあう機会があった分、僕の方は精神的にキツいとなることなく過ごせたんです」

テレビの中で歌う自分が他人のようだった

 ステージや歌番組から離れていた時期、NHKの「うたコン」で過去の映像を流し、酒井が電話出演した回があった。『純烈のハッピーバースデー』を自宅で見た後上は、テレビの中で歌う自分が自分と思えなかった。  感覚的には紅白に出場したほかの人が歌っているのを、出たこともない自分が眺めているようだった。人前に立って何かをやる行為から遠ざかると、このようになるのかとの驚き……。  テレビやラジオの収録は、スタッフの存在こそあっても目の前にオーディエンスがいない。仕事は来ても、そればかりはどうにも埋められぬ違和感だった。  純烈の公式YouTubeチャンネルに、過去のライブ映像が順次アップされた時も、ほかのアーティストを見る方に近かった。姿形は後上翔太なのに、そこに自分がいる実感は得られなかったのだ。 「それでも、ただ不思議な感覚のままいるのではなく、どこかのタイミングで『だけどいつかはこれを自分がやるんだよな。じゃあ準備しなきゃ』ってなれたからよかったですよ。あのまま他人事のようにただ再開できる時を待っていたら、対応できなくなっていたでしょう」  白川は「ずっとあのペースでステージをやってきたのがいきなり年数本になって、そのあとで復活するとなった時、歌えるのかという不安がある」と言った。小田井は「期待感によってよりハードルが上がる中で、それに応えるものが見せられるか」を再開後のテーマに見立てている。  そして後上は、拭いきれぬ違和感を抱えつつも受験を控える学生よろしく準備を重視する。それぞれが、それぞれの向き合い方でNEXTを考えているという意味で、純烈はこの2020年も動き続けてきたのだと言えまいか――。 撮影/ヤナガワゴーッ!
(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。

白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。
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