ハリウッドザコシショウは本当に面白いのか?
文/椎名基樹
「水曜日のダウンタウン」(TBS系)の「第6回最強替え歌トーナメント」で、ハリウッドザコシショウ(以下・ザコシ)が、2年ぶり2回目の優勝を果たした。
替え歌と言っても、ザコシがウィットに富んだ歌詞を披露したわけではない。ザコシがやった事は、いつものアナーキーな芸だ。3Dアニメーション「ミニオンズ」のような目の表情が変わるおもちゃのメガネを使用した芸は「それっておもちゃが面白いだけでは?」と誰もが思うだろう。
彼の「出世作」とも言える「誇張したモノマネ」で披露したのは「誇張したMr.シャチホコ」。え!? モノマネのモノマネ? 永遠と「あなた何されてる方?」と絶叫し、Mr.シャチホコが類まれな観察眼と感性で切り取ったネタを、モノマネを言い訳に軽々とパクってみせた。ずるい!
スタジオゲストの藤本敏史は「まともにやったもの負けなのでは?」と至極当然のコメント。ザコシ当人にも自分が反則で勝利をもぎ取った自覚があるようで「勝ちは勝ちだ」と思わず口走る。
決勝で戦ったどぶろっくは、下ネタであるが「らしく」非常によくできた芸を披露したものの敗れ去り、「もはや誰がザコシを止めるか」と王者の強さを認めた。しかしそれは「あんな反則にどうやって勝てつーの」と言っているようにも聞こえる。
この放送のTwitterの反応は「ザコシは何が面白いかわからない」というコメントで溢れた(笑)。審査員は51人の若手芸人が務めたのだが、「ザコシを選んだ若手芸人は絶対に売れない」なんて言う書き込みもあった(何様だ!)。
しかし現在ではザコシの芸はかなり認知されてきたと言える。ザコシが「R-1ぐらんぷり」で優勝したときの、世間の「何が面白いかわからない」と言う反応はかなりなものだった。
それは当然の反応だ。ザコシの芸は「面白くないが面白い」のだから。ザコシの芸はテロリズムだ。ザコシ本人も「現代ビジネス」のインタビューで自分の芸について「嫌な気持ちにさせてやろうというのがある」と語っている。彼は突然ステージで「これでもくらえ」とばかりに、不謹慎なことを始める。それは見る角度により「面白く」もなり「不愉快」にもなるのだ。
仮に結婚式で新郎の叔父がベロベロに酔っ払ったとする。正体をなくし大声で喚いている。ついには卑猥な4文字言葉を叫び出した。新婦の両親は怒りに肩を震わせている。
一方で、新郎とさして親しくない会社の同僚は思わず吹き出したが、必死に笑いをこらえている。ここで笑ったら自分まで非常識な人間の一味と見なされてしまう。親戚の高校生はこっそりとその模様をスマホで撮影した。後日学校でそれを友達に見せるとみんな大爆笑してくれた。「不謹慎な存在」は見る人の立場によって「面白く」もなり「不愉快」にもなる。
ザコシのステージを新婦の両親の目線で見れば、裸で意味不明なことばかり叫ぶ男は、楽しい雰囲気をぶち壊す不届き者だ。しかし同僚や高校生とそのクラスメイトの視線で見れば、当惑する他の観客の姿が滑稽に見えてくるだろう。仮に他の出演者がアイドル的な人気を誇るお笑いグループだとしたら、それを目当てに観客席を埋めた少女たちが不快感を露にする姿に、ある種の爽快感を感じるかもしれない。
もはやルール無用……誰にも止められない
ザコシは何が面白いかわからない!?
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1968年生まれ。構成作家。『電気グルーヴのオールナイトニッポン』をはじめ『ピエール瀧のしょんないTV』などを担当。週刊SPA!にて読者投稿コーナー『バカはサイレンで泣く』、KAMINOGEにて『自己投影観戦記~できれば強くなりたかった~』を連載中。ツイッター @mo_shiina
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