女優・片岡礼子、若者たちに感心「大人は信用できない」世代
映画、ドラマ、CMと活躍が目覚ましい伊藤沙莉さんが“ポン引き・街娼”注意の看板横に下着姿で佇む。そんな圧倒的インパクトの場面写真が話題を呼んでいる映画『タイトル、拒絶』。それぞれ事情を抱えながらも力強く生きるセックスワーカーの女性たちを描いた山田佳奈監督の作品だ。
舞台は雑居ビルにあるデリバリーヘルス「クレイジーバニー」の控室――。就職活動が上手くいかず、デリヘル嬢になるつもりで体験入店に来たカノウ(伊藤沙莉)は、いざという場面で客から逃げ出してしまったことからデリヘル嬢たちの世話係となる。そして、彼女たちの突き付けてくる様々な注文に右往左往の日々。
一方で、店で一番人気のマヒル(恒松祐里)、我の強いアツコ(佐津川愛美)、店のスタッフの良太(田中俊介)に思いを寄せるキョウコ(森田想)、デリヘル嬢たちを厳しく管理する山下(般若)など、個性的な面々がそれぞれの思いをぶつけ合うなか、落ち着いた佇まいを見せる女性がそこにいました。それが、片岡礼子さん演じる“ベテラン”デリヘル嬢のシホ。
――片岡さん演じるシホは他の若い登場人物たちより一世代上ですが、演じる上で心掛けたことはどのようなことだったのでしょうか。
片岡礼子(以下、片岡):シホは同世代ではないものの、彼女たちと同じ店にいて同じ時を過ごしています。一世代上ということもあり、一見、彼女たちから一歩距離を置いているように見えますが、そもそもやってきたことが違うんですね。控室の部屋で一緒にキャピキャピはできないだろうな、と思って。だからと言って「あっ、シホさんが来た」という感じだったらやり辛いのではないかと。
そんな風に役作りについて考えていた時に、監督に彼女の現在に至るまでの職歴などバックグラウンドを聞いたんです。劇中でも明かされますが、シホはキャバクラ店に勤めている時に今付き合っている彼に出会うんです。それでだんだん暮らしぶりが厳しくなって、この店に来るようになった。
他の子たちは、この仕事をやりたかったのか、これしかなかったのか、それはわかりませんが、自分の意思であの店にいます。でも、シホは男性のためにこの仕事をしているんですね。男性ありきで働いているけれども、仕事はきちんとやっている。それが「私」なの、という感じです。そのイメージが湧いた時、シホが自分の中で着地した気がしました。
――劇中では若い登場人物全員がもがいていますが、終盤、その息苦しさが暴発する展開になります。やはり今の若い世代はかつてと比べて「自分はダメだ」ということを吐露できない程の息苦しさを感じていると思いますか?
片岡:今の若い人たちは、口では「自分はダメだ」と言っていますが、それほどまでに自分のことはダメだと思ってないように感じますね。長引く不況やコロナ禍もあって大変な状況ですが、シホの目を通じて言うと、彼女たちの言うことを聞いていたら、8割OKではないか。そう思えてしまうんですね。
キャピキャピしている彼女たちの会話に参加するわけでもなく、隣で聞いていたのですが、とても力強いと思いました。話しかければしっかりとこちらともやり取りします。その堂々とした感じに未来は安泰だと思いました。
――確かに、今の若い人たちは堂々としていますよね。
片岡:自分の10代後半、20代前半の危うい時よりも、数倍成熟している気がします。私たちの世代は大人の言うことを聞かないといけないという世代でした。そして、聞いて安泰だった。大人が信用できる世代だったんです。
ところが、今の若い人たちには「大人は信用できない」という危機感があって、自分の物差しで物事を判断するんです。
私たちは「自分はダメだ」と思っていても、それを口に出しては言えない世代でした。私の20代は「自分はダメだ」と思っていても、人前では「がんばります、ダメじゃないです、ピンチはチャンスです」と言ってしまっていたんですね。ところが、自分の内心を見抜いている人に「ダメじゃないよ」と優しく声を掛けられると涙が出てしまったり……。
今の子たちは「ダメじゃないよ」と声を掛けても「ダメって思ってないです」とスパッと切り返す強さがあります。彼ら彼女たちは、ちゃんとポジティブに育てられている。自分たちがネガティブでいる必要がないということを知っている世代に感じますね。だからカッコいいんです。
若い監督さんの映画もよく見ますが、凄いです。もちろん、経験が豊かな先輩が作ったものも凄いのですが、経験が少ない若い人たちが作ったものが見応えがないかと言うと、そうではありません。自分たちが若かった頃に大人の世代を参考にしながら「うーん」と考えていたことと、今の若い世代が考えることは違うんじゃないかと思いますね。
今ドキの若いキャストたちが多く在籍するなかで、一世代上であることから一歩引いた目で見る。きちんと仕事をしながら言うべき時に言うべきことをビシッと言う。そんな役どころを演じた片岡礼子さんに、シホ役や若い世代のキャストたちに寄せる思いについてお話を聞きました。
風俗店に“自分の意思”で働く「私」
今の若者たちは自分の物差しを持っている
1
2
ライター、合同会社インディペンデントフィルム代表社員。阪南大学経済学部非常勤講師、行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、映画、電子書籍製作にも関わる。
記事一覧へ
記事一覧へ
タイトル:『タイトル、拒絶』
公開日:新宿シネマカリテほか全国順次公開中
監督・脚本:山田佳奈
キャスト:伊藤沙莉 恒松祐里 佐津川愛美 / 片岡礼子 / でんでん
森田想 円井わん 行平あい佳 野崎智子 大川原歩 モトーラ世理奈 池田大 田中俊介 般若
プロデューサー:内田英治 / 藤井宏二 キャスティングプロデューサー:伊藤尚哉
劇中歌:女王蜂「燃える海」(Sony Music Labels Inc.)
企画:DirectorsBox 制作:Libertas 製作:DirectorsBox / Libertas / move / ボダパカ
配給:アークエンタテインメント
2019 年 / 日本 / カラー / 98 分 / シネマスコープ / 5.1ch レイティング:R15+
オフィシャルサイト:http://lifeuntitled.info
オフィシャルツイッター:@titlekyozetsu #タイトル拒絶
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ