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国会を動かした現役慶大生の本気。「望まない孤独が自殺を増やしている」

ネグレクト気味の幼少期と恩師の存在

 大空さんは、幼少期に両親が離婚。小学生のうちは愛媛県で父親と暮らしていたが、中学生になって母親と母親の再婚相手と暮らすために上京した。
NPO あなたのいばしょ 大空幸星さん

大空幸星さん

「幸い、友達はいましたが、小中高と親との関係性が悪く、断続的に不登校が続きました。当然、勉強は遅れ、成績はひどかった(笑)。生きることに絶望しながらも、英語は比較的得意だったので、海外に行きたいという理由から留学制度のある高校に進みました。本来はバイト禁止の学校でしたが、僕は家庭の金銭的な問題からバイトが許されました。逃げ場ができたことで少し救われましたが、暖かい家庭と無縁なことでの孤独は常に抱えていました」  理想のスクールライフを送るために、学校とアルバイトに精を出していた大空さん。しかし、ホテルの配膳などのバイトで昼夜が逆転したことで、またも学校生活がうまくいかなくなり、大空さんは自殺を考えるほどに追い詰められていく。しかし、当時の担任だった教師が大空さんの苦境を救ってくれたことで、人生を踏みとどまることができたという。 「その担任の先生は、留学のための三者面談に母親が来ない、留学費用の貯金の準備ができていないなどの状況から、僕や僕の家庭に問題があると気がついてくれていました。5限から登校しても、怒られず、『よく来たな』と褒めてくれていましたから(笑)。 ある夜、思い悩んで先生に「学校を辞めたい」とメールをしたら、翌朝僕の家の前で先生が待ってくれていたんです。先生ご自身の教師になる前の経験も話してくださって、『もしかしてこの大人は、信頼してもいいかもしれない』と思えるきっかけになりました。それから、高校に通いながら一人暮らしができる寮を探してくれたり、一時的に留学費用の保証金を自分の貯金から貸してくれたり……。とても親身になって相談に乗ってくれたことで、生きることや勉強への意欲も湧き、大学進学を考えられるまでに前向きになれたんです。 これは、僕にとって奇跡的な出会いでした。その頃から、僕が先生に相談して孤独から一歩ずつ脱出できたように、“誰でも確実に相談できる窓口にアクセス可能な仕組みを作りたい”という思いを持つようになりました」

「あなたのいばしょ」設立の経緯

 大空さんは海外の大学への進学を望んでいたが、学費、生活費を理由に断念。奨学金で慶応義塾大学のSFCに進学した。大学では非営利組織論や社会安全政策学を学び、具体的な夢の実現の準備を進めていた。しかし、さすがにコロナウイルスの登場は予想だにしていなかった。 「自殺を含むセーフティーネットは、電話相談が中心です。ただ、30代くらいまでの若い世代にとって、電話相談はハードルが高すぎます。日常でも使わない電話を、切羽詰まった時に選択できるでしょうか。チャットなら気軽に相談できますし、すべてのやり取りをデータとして蓄積できます。これはメンタルヘルスのRAWデータとして非常に貴重で、社会的意義が高い。 すでに厚労省が主導したチャット相談も存在していましたが、自殺を思い立ちやすい深夜に対応していないなど、若者にアプローチできているとは言い難い状況でした。 時差を利用して、海外在住の相談員に対応してもらうなど24時間、365日稼働する相談プラットフォームを模索している最中に、コロナ禍に突入しました。完全に見切り発車でしたが、早稲田大学の友人と急いでLINEのアカウントを作成すると、いきなり40件もの相談が相次ぎました。 そのとき、『これはまずい!』と焦りました。僕たち2人だけで対応できるキャパシティを一気に超えてしまったからです。また、小学校や中学校のパソコン室からではSNSを使えないということもわかり、LINEのアカウントは1週間で閉鎖し、急いでシステムを組んで「あなたのいばしょ」を本格始動させることになったんです」
NPO あなたのいばしょ 大空幸星さん

大空幸星さん

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“望まない孤独”の認知向上に向けて
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