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国会を動かした現役慶大生の本気。「望まない孤独が自殺を増やしている」

“孤独”と“望まない孤独”の違い

「日本では文化の影響もあって、“孤独”が賛美される雰囲気もありますが、それは個人が自ら望んで得た“優雅な時間”という意味の孤独です。親との関係が悪化して家にいられない、ひとり親家庭で逃げ場がないなど、自殺の原因にもなる“孤独は”、個人が『望まない孤独』です。命を投げ出しそうになったときに、確実に頼れる場所がない。そもそもどこに助けを求めたらいいのかわからない……僕自身もそういう子どもでした」  こう語るのは、日本初の24時間365日、年齢や性別問わず匿名で相談できる無料チャット窓口「あなたのいばしょ」代表の大空幸星さんだ。 NPO あなたのいばしょ 大空幸星さんNPO法人あなたのいばしょ理事長 大空幸星(おおぞらこうき)さん 1998年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部在学中。2020年3月に「望まない孤独の根絶」を目的にNPO法人あなたのいばしょを設立

国会で言及された“孤独担当大臣”

国会議事堂

写真/Adobe Stock

 1月28日の国会では、国民民主党の伊藤副代表が「孤独担当大臣の検討」を求めた。それに対し、菅首相が厚労大臣の役割だと答えると、水を向けられた田村厚生労働相が「えっ!?」と驚き、「任命いただいたのかよく分からないが……」と、困惑しつつも取り組みに言及する一面が話題になった。また今月10日の報道では、政府が坂本1億総活躍担当相を旗振り役とし、有識者会合を開催するなど、対策に本腰を入れることがわかったと、スピード感を持った進展が報じられた。 (※追記 記事配信後の12日午前、菅首相が坂本哲志地方創生担当相に、新型コロナウイルス感染拡大で深刻化する孤独・孤立問題を担当するよう指示した)  新型コロナウイルスはワクチン接種が始まるなど、長期的には収束への希望も見えつつある。しかし、緊急事態宣言は延長され、明らかに社会のストレス、弱者の孤独は高まり続けている。リモートワークやオンライン授業の増加は、ウイルスへの対応としては最善だが、同時に「望まない孤独」を生み出してもいる。  こうした「孤独対策」が、社会問題として国会で取り上げられるまでに至った裏側には、弱冠大学4年生ながら、“望まない孤独”と立ち向かった大空さんの奮闘があった。

次世代慶應ボーイの挑戦

「イギリスでは1年をかけて“望まない孤独”についての調査を行い、孤独による経済損失が年間4.7兆円にも及ぶと試算され、2018年に孤独担当大臣が設置されています。僕は、昨年3月にチャット相談をやり始め、夏以降はイギリス政府や赤十字関係者とやりとりを重ねてきました。 そして、それらを元に12月3日、加藤勝信官房長官に日本独自の孤独対策案を提言させて頂きました。ボランティアが主体となった現在の相談窓口は、あくまでも対症療法でしかなく、問題の根源にある“孤独”を社会的に解消しなければならないからです。それには省庁を横断する必要があり、孤独相を設置するなどのアプローチが不可欠です」
NPO あなたのいばしょ 大空幸星さん

大空幸星さん

 省庁横断の特命ポストといえば河野ワクチン担当大臣が任命されたばかりだが、コロナ禍が命と経済損失に直結する課題としては、孤独担当大臣の設置も急務だというのだ。こうした大空さんの取り組みに、鈴木貴子衆院議員など自民党の若手議員が賛同し、1月には勉強会が立ち上がるなど、与野党が注目し、国会での言及に至ったというわけだ。  減少を続けてきた日本の自殺者数は、2020年に2万919人と、11年ぶりに前年を上回った。気になるのは、11年連続で減少した男性の1万3943人に対し、女性が6976人と、過去5年で最多に。また、小・中・高校生も統計のある過去40年で最多になって総数を押し上げていることだ。数の上では依然男性が多いのは事実だが、コロナ禍の影響が社会や家庭の弱者にこそ及んでいることが見えてくる。 「全年齢の自殺者数は減っていましたが、コロナ以前から若者の自殺者数だけは過去最悪を更新し続けていました。親との関係が悪化して家にいられない、ひとり親家庭で逃げ場がないなど、“望まない孤独”にさらされている子どもはたくさんいます。命を投げ出しそうになったときに、確実に頼れる場所がない。そもそもどこに助けを求めたらいいのかわからない……僕自身もそういう子どもでした」
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「あなたのいばしょ」設立の経緯
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