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未経験の2人が始めたミニコミ専門書店。コロナ禍での苦労とその先

 数年ほど前から、新しいメディアとして注目を集めている『Zine(ジン)』。Zineとは個人が制作した冊子のことで、ミニコミあるいは同人誌とも呼ばれる。そのZineを専門的に取り扱っている書店が大阪市此花区にある『シカク』だ。
シカク

「シカク」代表の竹重みゆきさん

 今年でオープン10周年を迎える同店では、Zine販売のほか、トークイベントやアーティスト作品の展示なども行っている。「シカク」にとって、コロナ禍を通しての10年間はどんな年だったのか。代表である竹重みゆきさんにインタビューを行った。

未経験の2人で始めた書店

シカク

店内

 ここ数年でメジャー化してきたZineというジャンル。竹重さんがZine専門店をオープンさせるまで、どのような経緯があったのだろうか。 「学生のとき、後に共同経営となる友人にZineを勧められて興味を持ったのがきっかけです。当時から、何か店を開きたいという思いはあったのですが、何をしたいかは全然決めていなくて、そんなときにZineの存在を知ったんです。当時は大阪にZineを取り扱うお店は少なくて、 取り扱いがあってもカフェや書店の一部のコーナーで販売する程度がほとんどでした。  関西でZineを広めたいという思いから『シカク』をオープンさせたのですが、2人とも書店販売の経験がありません。最初は、平日にアルバイトをしながら土日に自宅の一部を開放して本を販売することからスタートしました。当時は『住み開き』といって、自宅の一部を店舗やギャラリーなどに開放するというのが関西でブームだったんです」
シカク

様々なZineを扱っている

 やがて、口コミで広まると受託される書物の数も増えていき自宅での販売では手狭になっていった。2012年、大阪中津の商店街の物件を借りて1階が書店、2階が自宅という形でオープン。店舗の一部をイベントスペースとして、Zine作家のトークイベントやアート作品の展示販売など様々なイベントを行った。

コロナ禍での苦労

シカク 2017年には現在の此花区に移転し、2017年に代表として独立した竹重さん。昨年のコロナ禍には様々な苦労があったという。 「4月の緊急事態宣言のとき、時短や休業などの要請はなかったのですが、トークイベントを開催することができなくなってしまったんです。お店の広さの関係上、感染対策をしながらトークイベントを開催すると収益をあげられなくて。作品の展示販売だけの開催をしたのですが、外出自粛の影響でお客さんは少なかったですね。コロナ前までイベントの売上は全体の5割強を占めていたので、かなり苦しかったです。オンラインイベントも開催してある程度の収益にはなりましたが、いつものイベントのように集客が本の売上に繋がることもないので、全体の売上としては伸び悩みました。  それから少しして、『コロナ応援』として通販での注文が増えてきたんです。売上を確保することはできたのですが、商品を梱包しないといけないので店舗販売よりも時間がかかるんです。緊急事態宣言中なのでスタッフに出勤させるのも悪くて、1人で夜中まで梱包作業に追われていました。精神的にも辛かった時期ですね」
シカク

様々なアーティスト作品も販売している

 だが、6月に入ると本の売上は5月の1/3までに落ち込んだ。ステイホームで読書をする人が増えたというが、単冊物が多いZineではリピーターを確保するのが難しいのかもしれない。元々、ネットで存在を知り出張やイベントで大阪に来るときに寄るという顧客が多いシカク。出張やイベントが中止になったことで、遠方からの客足が途絶えてしまったのだ。
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イベントは再開できたけど…
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東京都出身。20代を歌舞伎町で過ごす、元キャバ嬢ライター。現在はタイと日本を往復し、夜の街やタイに住む人を取材する海外短期滞在ライターとしても活動中。アジアの日本人キャバクラに潜入就職した著書『底辺キャバ嬢、アジアでナンバー1になる』(イーストプレス)が発売中。X(旧Twitter):@ayumikawano

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