魔法が宗教に?ハリー・ポッター同人小説のトンデモな中身
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン
ファンがアニメやマンガを独自に改変する同人小説。日本ではもはやおなじみとなっており、それは海外でも例外ではない。しかし、星の数ほどもあろうかという同人小説のなかで、ある世界的ベストセラーの改変があまりにも酷いと欧米のインターネット上で話題になっている。
◆「子供が魔女になると困るから改変した」
問題となっているのは世界的ベストセラーで、映画も大ヒットした『ハリー・ポッター』の同人小説。主人公ハリーが魔法学校に入り、仲間とともに悪の魔法使いに立ち向かう……と、誰もがあらすじは知っている作品だ。こういった人気作品は少し改変するだけでも世界観を壊してしまいそうなものだが、問題の同人小説では、なんと魔法に関する部分がすべてキリスト教に置き換えられている。この同人小説を作ったのはグレース・アンという女性で、執筆した理由について「私の子供が『ハリー・ポッター』を読みたいって言っていて、たしかに読書するのは素晴らしいけど、子供が魔女になったら嫌でしょ? だから家族のためにちょっと改変したのよ」と語っている。とても「ちょっと」と言えるような改変ではないが、その驚愕の内容をいくつか紹介しよう。
◆神に祈って空を飛ぶ
『ハリー・ポッター』と言えば、箒やさまざまな魔法を使って空を飛ぶ場面が印象的だが、キリスト教では魔法は御法度。そこで遠距離移動をする場面では神の力に頼っている。
「ハグリッドは道に深く膝をついてハリーをひざまずかせ、空に手を掲げた。『神様。私たちをホグワーツに連れて行ってください!』。ハリーは自分が持ち上げられるのを感じた。すると一瞬のうちに彼はひんやりとした芝生に座り、高い塔や灰色の石を見上げていた」
こういった超自然的な力はキリスト教では“奇跡”と呼ばれているが、この同人小説では魔法の代わりにたびたび使われている。また、主な舞台となる「ホグワーツ魔法学校」も「ホグワーツ祈りと奇跡の学校」に改められている。
◆進化論を信じる人間をアホ扱い
『ハリー・ポッター』では魔法を信じない人々がユーモラスに描かれているが、この同人誌ではキリスト教を信じない人々が無知であるように描かれている。
「ハグリッドは大笑いした。『進化論はおとぎ話だよ。まさか信じちゃいないだろ?』。『信じてるわ!』と、ペチュニアおばさんは叫び声をあげた。『じゃあ証明してみろ!』。ペチュニアおばさんはただ彼を見つめるばかりで、間抜けそうにぽかんと口を開けていた」
キリスト教原理主義と呼ばれる宗派のなかには人が猿から進化したという進化論を否定するものも少なくない。この同人小説にもそういった傾向は顕著で、ネット上では「魔法を信じるヤツらも宗教を信じる連中もおなじぐらいおめでたい」という辛口なコメントも見られた。
◆女性は仕事をするべきではない
主人公ハリーのライバルといえば同級生で闇の魔法使いを崇めるドラコ・マルフォイ。以下の場面では「女性はバカだから仕事をするべきじゃない」と、セクハラ都議並にアウトな発言をするマルフォイに主人公ハリーが立ちはだかるのだが……。
「『女性が仕事をするべきじゃないのはバカだからじゃない!』ハリーは叫んだ。『女性はちっともバカじゃない! 女性が仕事をするべきじゃないのは育児が上手で、愛情深くて、(神からの)贈り物を一番活かせるのが家庭だからだよ!』」
ライバルの女性蔑視をとがめるハリーだが、女性の社会進出には否定的なようす。このほかにも学校の寮によって微妙にキリスト教の宗派が異なるなど、子供向けファンタジー作品とは思えないような生々しい描写が溢れていた。もちろんハリーの暮らす寮は原理主義である。
◆同じキリスト教徒からも非難が殺到
同人小説の内容を報じたサイトのコメント欄を見ると、「ファンタジー作品にプロパガンダ的な宗教色を加えることはよくない」とする声や、「同じキリスト教徒から見てもおかしい」というコメントも少なくなかった。
「聖書を渡してもいいし、モルモン書を渡してもいい。コーランでもなんでもいいけど、自分の宗教を支持するために改変した『ハリー・ポッター』はあたえるなよ……」
「俺もキリスト教徒だけど胸くそ悪いね。本を読ませて現実とファンタジーの違いを教えればいいじゃないか。子供のために壁をつくるより、生きていくための道具をあたえるべきだ」
このように欧米圏のネット住民からは非難ごうごうだったが、なかには同人小説として見た場合、そこまで悪意のあるものではないと擁護する声もあった。
「同人サイトにはもっと酷いもんがたくさんあるよ。これは別なお話に『ハリー・ポッター』のキャラを使ってるだけで、まだ害はない。こういうサイトにはホームドラマの18禁バージョンなんかもあるし、まだマシなほうだろ」
本が出版された当時や映画が公開された際にもキリスト教団体から抗議を受けた『ハリー・ポッター』。シリーズ完結後もこのような騒動が起きていることからわかるように、まだまだハリーのかけた“魔法”が解ける気配はなさそうだ。 <取材・文/林バウツキ泰人>
※参照元
●Yahoo! TV:https://tv.yahoo.com/news/mom-rewriting-harry-potter-replace-witchcraft-christianity-221000371.html
●FanFiction:https://www.fanfiction.net/s/10644439/1/
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