第2の国民主権党となる「つばさの党」
実は今、「国民主権党」に続き、「コロナ自粛は見直すべきだ」と訴える新たな団体が生まれている。それが6月5日に立花孝志氏率いる「古い政党から国民を守る党(旧・NHKから国民を守る党)」の諸派党構想に参加することを正式に表明した「
つばさの党(旧・オリーブの木)」である。
「つばさの党」からは、ナスの被り物をした「ナンパ師」を職業にしている
中星一番氏が葛飾区から立候補する計画を立てており、既に亀有駅を中心に政治活動を始めているが、同党代表の
黒川敦彦氏と中星一番氏は、「武漢ウイルス研究所の研究員とつながり、独自に得た情報を共有する」と言い出し、従来の副反応とは異なる深刻な現象が起こるという独特の主張を展開。人々にワクチンを打たないように呼び掛けている。
現在、日本政府が1日100万回の接種を目指している「mRNAワクチン」は、これまでになかった新しい技術のため、理論上は特に大きな影響はないだろうと考えられているものの、実際にやったことがないので、中長期的にどのような影響が出るのかは不明である。また、割合としては少ないものの、副反応がないわけではなく、実際にワクチンを打った人が発熱や倦怠感を訴えるケースもある。それでも高い予防効果と重症化を防ぐ効果が期待されることから、持病を持つ人やエッセンシャルワーカーを中心に「打ちたい」と考える人は多い。
もっとも、ワクチンのリスクとベネフィットは、その人の置かれた環境などによっても大きく異なる。例えば、医療や介護の分野で働いている人は感染リスクが高く、患者さんたちに感染させないようにプライベートでの行動も大きく制限されていることから、多少の副反応があってもワクチンを打った方が安心感が全然違うかもしれない。
一方、家の外に出ることがほとんどなく、ポツンと一軒家で自給自足の生活をしているタイプの人は、そこまで一生懸命ワクチンを打たなくてもいいという判断も否定はできない。つまり、ワクチンを打つか打たないかは、それぞれが環境などを総合的に考えた上で判断することもできるとは言えるが、その判断の材料となるデータや情報は正しいものでなければならない。
一体、どのような副反応がどれくらいの割合で起こるのかという科学的なデータがきちんと公開され、そのデータをもとに打つか打たないかを判断するべきだと主張するなら真っ当なことだが、「武漢ウイルス研究所の研究員と直接やり取りをして、こっそり入手したヤバい情報を、支持者だけに特別に教えます」という怪しい情報をもとに考えると、判断を誤ってしまう恐れがある。
それでも、6月5日に新宿西口で行われた「つばさの党」と「古い政党から国民を守る党」の共同街宣には、主催者発表で300人(筆者の目視では100人前後)が集まり、そのうちの2割ぐらいはマスクをせずに参加をしていた。
質問のために登壇した若い男性は、黒川敦彦氏に「マスクを外すように呼び掛けてほしい」と訴え、「古い政党から国民を守る党」の副党首・大橋昌信氏は「営業時間を短くしろとか、テレワークをしろと言われても、わけがわからない」と壇上から訴え、拍手を浴びていた。世の中にいる「コロナ自粛反対派」の声を、票やお金に換えようという政治団体が精力的に活動を続けているのである。
今度の東京都議選で、「国民主権党」や「つばさの党」、あるいは「古い政党から国民を守る党」が議席を獲得できるかと聞かれたら、その可能性は限りなく低い。ほとんど心配しなくていいレベルなので、それなら放置してもいいのではないかと思うかもしれないが、注意が必要なのは、選挙を利用して陰謀論を振りまくと、賛同する人たちが「選挙資金」という名目でお金を出すようになり、新たなビジネスが生まれ、今まで以上に組織だった活動をするようになってしまうことにある。
既に始まっている「国民主権党」のコールセンターは、全国の小学校に片っ端から電話をかけては「マスクを外しましょう」と呼び掛けている。小学校も無駄な電話対応をしなければならない上、SNSでは反社会的な呼びかけも始まっている。
例えば、ファイザー社の「mRNAワクチン」は、ディープブリーザーと呼ばれる超低温冷凍庫で保管されることになっているが、冷凍庫のコンセントを抜こうと呼びかけ、「#プラグを抜こう」というハッシュタグまで出来上がっている。
この呼びかけの悪質なところは、「プラグを抜くことが人々の命を守ることにつながる正義だ」と主張していることにある。陰謀論を盲信した人がそのまま信じ、正義感にかられ、実行に移すようなことが起こり得る。今はまだ実行に移すような人間はいなくても、選挙を使った広報活動により、支持者が増えてしまうと、本当にプラグを抜くような人間が出てきてもおかしくない。つまり、こうした政治団体を厳しく冷ややかな目で監視することが必要なのだ。
選挙ウォッチャーとして日本中の選挙を追いかけ、取材しています。選挙ごとに「どんな選挙だったのか」を振り返るとともに、そこで得た選挙戦略のノウハウなどを「
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