極端な主張は議席を取るための戦略である
世の中のほとんどの人は「コロナはただの風邪」だと思っていないし、ワクチンについても「5Gの電波によって人間の行動がコントロールされてしまう」と恐れていたりはしない。なので、こんな主張をしたところで、多くの有権者は無視してしまう。
しかし、こういう話を信じてくれる人が全国に2%でもいれば、議席を獲得でき、国政政党になれば億単位の政党交付金が入るようになる。そのお金を「貸付金」という形で個人に回し、「あとで返済する」と言えば、ナンボでも自由に使うことができる。定数40を超える都市部の市議会議員になれば、年収1000万円超えも夢ではない。
普通のことを言っても、わざわざ1票入れてくれるほど熱烈に支持してくれる人が増えるわけではないので、あえて過激な発言を繰り返し、時に炎上を巻き起こすことで、たくさんの人に嫌われながら、それでも熱烈に応援してくれる人を作り出す。これが
立花孝志氏が編み出した手法であり、それをお手本としている「国民主権党」や「つばさの党」のやり方だ。
勝てる見込みもないのに知事選に立候補したり、今度の東京都議選に目立つ格好で立候補したりするのは、その先にある区議選や参院選で、ひとまず「2%」を取るための「仕込み」なのである。
しかし、この戦略には大きな「落とし穴」がある。それは、こうした極端な主張に飛びつく人たちというのは、ことごとく「情弱」であり、世知辛い現代社会に馴染めない人たちである。けっして社会的に活躍している人たちではないので、支持者の中から候補者を擁立しようとすると、ただの「珍獣博覧会」になってしまうのである。
6月5日、新宿西口で行われた「つばさの党」と「古い政党から国民を守る党」の共同街宣で壇上に上がった人たちを見ると、知名度の低いビジュアル系バンドの落ち武者ヘアの男、コカイン常習者だったと自称する全身タトゥーの男、ナスの着ぐるみをかぶった元AV男優のナンパ師の男などなどだ。こうしたメンバーを見て、N国信者たちは「スーパーヒーローが大集結するアベンジャーズのようだ」と大絶賛するのである。
「国民主権党」や「つばさの党」らが展開する新型コロナウイルスをめぐる「トンデモ理論」を補完しているのは、嘉悦大・
高橋洋一氏の「日本のコロナはさざ波」発言や、京都大学・
宮沢孝幸氏の「緊急事態宣言の延長はまったくの愚策」発言等である。
通常、専門家でもないナスの着ぐるみを被ったナンパ師の訴えはなかなか聞いてもらえるものではない。しかし、大学教授の言うことだったら聞いてもらえるかもしれない。大学教授と言っていることが同じであれば、ナスの着ぐるみのナンパ師が言っていることにも信憑性が生まれてしまう。そうすると結果的に「国民主権党」や「つばさの党」に投票する人が増え、それがたった2%を超えるだけで議席を獲得してしまうのである。
そして、とうとう最も恐れていたことが起こってしまった。これまで「コロナはただの風邪」と主張してきた立花孝志氏が、新型コロナウイルスに感染していたことがわかったのだ。10日前から咳や発熱などの症状があったにもかかわらず、記者会見をしたり、イベントに出たり、通常と変わらない生活をしていた。しかも、イベントではノーマスクで、消毒もせずにマイクを使い回していたのである。
実際にはかなり多くの人が濃厚接触者となっている可能性があるが、立花孝志氏のコロナ感染を報じたスポーツ紙は、党の見解をそのまま報じ、「濃厚接触者はいない」と書いてしまっている。しかし、6月5日のイベントを見る限り、立花孝志氏がノーマスクであった以上、濃厚接触者がいなかったとするのは無理がある。自覚症状がありながらイベントに出演していた立花孝志氏にも問題があるし、濃厚接触が疑われる黒川敦彦氏には「今すぐPCR検査をするべきだ」という声が寄せられたが、黒川敦彦氏は「PCR検査陽性と感染は違う」などと言い出し、「マスクの裏にワサビを塗れば殺菌できる」などと真顔で説明し始めている。こうした甘い考えの人間が政治を食い物にして、同じような人々を仲間に引き込んでいる。彼らはこれからも感染を広げる迷惑行為を繰り返していくとみられるのだ。
飲食店の時短協力やアルコール提供の自粛など、生活を犠牲にした国民の努力のおかげで、第4波こそ越えられそうではあるが、もし東京五輪が強行開催されれば、さらに大きな第5波に襲われてしまうのではないかという懸念がある。しかし、事態が深刻になればなるほど、楽観論は膨れ上がる。だから、政党を監視することも必要だが、一部の学者たちが唱えるトンデモ理論もまた警戒する必要がある。約1か月半後に東京五輪を控える日本は、ますます混沌とした未来が待っていそうだ。
<取材・文・写真/選挙ウォッチャーちだい>
選挙ウォッチャーとして日本中の選挙を追いかけ、取材しています。選挙ごとに「どんな選挙だったのか」を振り返るとともに、そこで得た選挙戦略のノウハウなどを「
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