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ロッキン中止――この夏の「敗戦」はBGMすら流れない

国営ひたち海浜公園(茨城県ひたちなか市)で8月7日から開催予定だった「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル 2021」(ロッキン)が、茨城県医師会の要請を受けて中止されることが7日に発表された。King Gnu、サカナクション、YOASOBIなど出演予定だったアーティストも無念の心情を吐露している 鈴木涼美
鈴木涼美

写真/ロック・イン・ジャパン・フェスティバル2021公式ホームページより

君はロックを聴かない/鈴木涼美

「健康が大事、命が大事だということは、人類普遍の真実であるからこそ、その急所をにぎっている人びとが居丈高であったり、強権的であることを恐れ、厭う」とは、長期にわたって日本医師会のドンであった武見太郎について書いた福田和也の文章の一部だが、ただでさえ人の生命を掌中におさめている医師が、その力を誇示したときの人びとの怯えを端的に表している。  ちなみに武見太郎は武見敬三の父で、全国一斉休診や保険医総辞退の強行など、医師としてあからさまな力の行使をしまくった男である。  政治家だって厚労省の官僚だって、医師にそっぽを向かれたら、自分の権力を行使するための健康の維持ができないわけで、そういう意味で医師の言葉は致命的に重い。全世界が治療薬やワクチンに命を握られていたコロナ禍の世界はそれを改めて実感したし、権力の誇示に抑制的な医師が多いのは自らの力に自覚的だからだろう。  8月に茨城県ひたちなか市で予定されていた野外音楽フェス「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」が、中止に追い込まれた。  20年続き、矢沢永吉や井上陽水などの日本を代表するベテラン勢も参加した音楽フェスは、地元の名物の一つでもあった。昨年はコロナの影響で他の多くのイベントとともに中止となっており、2年ぶりの開催に向けすでにチケットなども販売されていたが、7月2日に県医師会が主催者である茨城放送に中止・延期の検討を要請した。  企画を担うロッキング・オン・ジャパンは、すでに今年春には千葉市で来場者を絞り、感染対策を徹底した音楽フェスを成功させた実績があり、地元県や市とも開催に向けて協議を重ねてきただけに、音楽ファンや関係者の落胆は大きく、出演予定だったアーティストも続々と中止を惜しむ声を挙げている。  苦渋の決断である。多くの人が集まるイベントでは、出演者や来場者の安全を守るためにも、医療とケンカするわけにはいかない。野外ロックフェスは常に天候などにも左右されてきたが、音楽には悔しさや悲しみを乗り越える力があるから、多くの音楽ファンはこの苦境もなんとか音楽の力で乗り越えようと足掻いている。  納得ができないとすれば、県医師会が五輪を強行しようとする政府に対してはその致命的な権力を振るっているように見えないことだろうか。武見太郎は医師会内でも独裁的な権力を振るい、各方面から思いっきり嫌われていたらしいが、それでも国家や中央省庁との喧嘩も辞さなかった。  東京都には再度の緊急事態宣言が発出された。ロックフェスに救われることが叶わない市民は、地元の飲食店で細々とお酒と一緒に涙を飲み込むことも許されない。予測不可能なコロナ禍、多くの市民は今までこういう苦味はそれこそ音楽の力を借りながら嫌と言うほど嚙み締めてきた。  ただ、どんなに準備をしても簡単に覆すことができるのがコロナならば、なぜ一箇所だけ覆らない場所があるのだろうか。あたかも国民を守るような顔をしてじわじわと殺すくらいなら、しっかり手に鈍器のようなものを握って、目を見ながら思いっきり殺してくれた方がまだ清々しいのに、あくまでみんなで協力して良い運動会だけはやろう、と笑顔で竹槍を渡してくる。  そして目に見えている2021年夏の敗戦には、ロックバンドのBGMすら流れない。 ※週刊SPA!7月13日発売号より’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

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