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ついに五輪が開幕。怒りの根源を忘れずに五輪後をまなざしたい

7月23日、東京五輪が開幕。午後8時から国立競技場で開会式が行われた。レインボーカラーのドレスで君が代を歌うMISIA、ゲーム音楽に彩られた入場行進、聖火ランナー最終点火者となった大坂なおみなど、さまざまな演出に注目が集まる一方、競技場外では開催中止を求める大規模なデモが実施された
鈴木涼美

写真/時事通信社

復興のファンタズマ

 2016年の夏季五輪開催都市を決める2009年10月のIOC総会で、最後に残った候補4都市の中で、オバマ夫妻の激励虚しく最初に脱落したのはシカゴだ。中継が流れる大画面で選考対象から外れる都市としてシカゴの名が呼ばれた時、都庁内のボルテージは最高潮になった。  石原慎太郎元都知事は当然IOC総会が行われているコペンハーゲンにいたので、いつも大抵不機嫌で偉そうでタバコ吸いすぎの副知事がアゲアゲ♂なテンションでマイクに向かって喋り、普段はつまらなそうにハンコを押している局長たちもギャルみたいに盛り上がった。  結局東京はシカゴの次に落選し、会場は一気にドヨーンとなって、ギャルだった局長たちは招致活動費150億円を現実的に思い返すおじさんの顔に戻ったけど、帰国後の記者会見で負けを認める都知事を責め立てる人はそれほどいなかった。  記者としてバブルの象徴みたいな形のあの役所に配属されたばかりだった私は、都市の老朽化を目の当たりにする日々で、正直バブリーに五輪招致してる場合じゃないだろと思っていたし、都知事の定例会見では某全国紙の記者が「どこの何を見て都民や国民が五輪を望んでいると思ったんですか?」と痺れる質問をしていたけど、思えばあのあたりが、五輪招致がたとえ老いた都知事の青春懐古に端を発するものだったとしても、都市再整備のタイミングではあるし、しょうがないから付き合うか程度には求心力があった最後のタイミングだったように思う。  再度のバブリーな招致活動、付け加わった復興五輪という理念、とは裏腹にいまだに問題山積の原発問題、とは裏腹に「フクシマはアンダーコントロールだ」とかました安倍晋三前首相のハッタリ、JOC会長の贈収賄疑惑、メインスタジアムの設計白紙撤回、エンブレムデザイン盗用問題と、COVID-19による延期など、決まる前から五輪の花びらは一枚ずつ剝がれていた。  今年に入ってからも、組織委会長の失脚から、開会式演出メンバーの相次ぐ辞任・解任が開幕直前まで続き、’90年代サブカル論議まで勃発、開会式の夜の明治通りでは大規模な反対デモが警察と小競り合う。  障害者差別やホロコーストに関しては、失言でメダルを取り続ける某大臣もしっかり踏みつけ済みで、退場を言い渡すべき本丸は音楽家や元コメディアンよりも政権中枢にいるいじめっこのような気もするが、多くの人が、意識的に投下される火種に素直に飛びつくのは、それだけ怒りの火種がそれぞれの中にあるからだろう。  始まってしまったのだから、アスリートと関係者の無事を祈りつつ、怒りや不満が溢れた根源をうやむやにせず、来る「五輪後」の都市再建に向けてじっくりと構造的な問題を炙り出す期間にしなくてはいけない。  日本人離れした歌唱力のMISIAも、日本の土壌では育てられなかったであろう大坂なおみも、それはホントに綺麗だと思ったけど、うっかり五輪関係者になったら炎上必至の過去がある人たちのことも懐深く許容し、飲食店が必死に暖簾を守り、深夜にカラオケから下手くそなMISIAが流れてくるような東京の歓楽街だって本当に美しい。  五輪をやるならせめて選手やマスコミ関係者らが、そういう東京の細部に宿る神を見つけられる機会になったらよかったのに、とやっぱり悔しく思う。開催後の都市は深刻な不況に悩まされるのが常で、気を抜けばそういう雑多で魅力的な街の細部は本当に消え失せてしまうだろう。  本当に退場すべき人に退場を言い渡すタイミングはすぐそこに迫る。 ※週刊SPA!7月27日発売号より’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

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