更新日:2021年08月22日 14:20
仕事

これが電子書籍? 挑戦を続ける製本会社の“アイデアが生まれる現場”に密着

適当なようでいて、実はきっちり作られた「いいかげん折り」

「いいかげん折り」で作られたコンサートのパンフレット

「いいかげん折り」で作られたコンサートのパンフレット。一見すると不規則に折られているようだが、背の部分はきっちりと綴じられている

 篠原紙工の、これまでの独創的な仕事をいくつか紹介していきたい。まずは「いいかげん折り」。通常の本のように縦横がきっちりと合っていない。無造作に、まさに「いいかげん」な感じで折られている。 「これは装幀家の祖父江慎さんと『デザインのひきだし』(グラフィック社)編集長の津田淳子さんのアイデアによるものです。紙をくしゃくしゃに丸めて『こんな折り方、機械でできないかな』と相談されました。  でも製本に使う折り機は、水平と垂直にしか折れないんです。機械を斜めにしたり角度をつけたり、いろいろと試してみました。何度もテストをして失敗を重ねながら、ようやく斜めに折りつつもきっちりと本の形にすることができたんです」

他社が「できない」という仕事に、あえて挑戦する

映画『つつんで、ひらいて』のパンフレット

映画『つつんで、ひらいて』のパンフレット

 他の製本会社が「できない」という仕事にもあえて挑戦する。例えば、装幀家・菊池信義さんを追ったドキュメンタリー映画『つつんで、ひらいて』(広瀬奈々子監督・2019年)のパンフレット制作は、さまざまな会社から断られた結果、篠原紙工に相談が来たものだった。 「装幀や製本に関心のある人が観てくれる映画だと思って、気合が入りました。先方の希望するデザインは、天地の長さが違う表紙と本文用紙を綴じるという変則的な形状の『中ミシン綴じ冊子』で、機械では加工できない。一冊ずつ、手作業で綴じなければならないものでした」  タイトルの通り、質感のある観音開きの表紙に、本文用紙が包まれるようなデザインだった。広瀬監督は当初、その注文が製本技術的には難しいということをよく知らなかったという。それに気づいた広瀬監督が謝ると「難しいから、ありがたいんです」と篠原さんは答えた。 「光栄でしたよ。映画に情熱をもった人たちと、本づくりに情熱をもった人たちのコラボに心がときめきました。また、違う業界の人たちと一緒に意見を交わしながら作ることで、思いを共有するチームでモノを作ることの大切さと楽しさを実感しました」  装幀は菊池信義さんと、映画にも登場する水戸部功さんが担当。業界の異なる人たちが協力し合い、ついに完成したのだった。
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双方の優れた点を合わせた「紙の本のような電子本」
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