高度経済成長を起こしたのは池田。角栄ではない
漫画家・大和田秀樹氏
倉山:高度経済成長を起こしたのは池田なのに、
繁栄のイメージは成長後の角栄のものになってしまい、池田の影が薄くなってしまいました。
大和田:若い世代にとって高度経済成長は思った以上に遠いのかもしれません。あと、これという後継がいなかったのが大きいと思います。
倉山:それにしても、
池田勇人は中学入試、高校入試、大学入試すべて失敗し、挫折を重ねているのに、なぜかエリートと思われていますね。
大和田:世間の人にとっての池田は大蔵次官が出発点ですから、エリートのイメージなのでしょう。実際にはしくじって出遅れたからこそ、敗戦後のパージで上役が消え、次官になれたわけですが……。
倉山:主税局長になったときには、なんと新聞に載りました。
大和田:「京大から初!」ってね(笑)。
倉山:大蔵省では京大法学部でもFラン扱い。あの人たちは大学じゃなく、高校で差別しますよね。
大和田:宮澤喜一さんは「あなた高校どちら?」と聞く。大学は東大に決まっているとのスタンスを示すために「大学どちら?」と聞かない。
倉山:性格最悪の宮澤をはじめ池田側近は池田にしか使えない人ばかり。
大和田:使い所を見つけたのが偉いですよ。ところで、私は理系なので、実は歴史を習ったことがないんです。高校は地理を選択したので、歴史は中学まで。大学は工学部なので、歴史とは何の関係もありません。
倉山:学校で学ばなかったから本物の生きた歴史が勉強できたんですね。
大和田:本を読んでいるだけです。
倉山:それが大きい。
大和田:いわゆる歴史って、文学部の史学科の人が勝手に決めたことでしょ。水戸光圀が決めた専門用語をずっと使っているだけ。
倉山:水戸光圀とかサラッとおっしゃいましたが、『大日本史』ですね。
大和田:歴史学って、鎌倉幕府の成立が1192年だったのが1185年になったりして、いい加減じゃないですか。
政治と同じで偉い人の意見が通る。学界の有力者の説が通説になる。そんな気がします。
倉山:その通りです。
大和田:本当は
ウソばっかりの戦後政治演義を描きたかったんです。
倉山:『疾風の勇人』はデフォルメしていますけど、本当の話ですよね。
大和田:講談社では
歴史書扱いになって校閲が厳しかった。細かいツッコミがいっぱい入ってうんざりしました。一方、昭和の出版ってフリーダムでしたよね。おかげで資料がたくさん残っていますが、フリーだったがゆえにウソもいっぱい残っていて、資料の見極めが大変です。でも、
『三国志演義』や『小説吉田学校』って、読んでいて楽しいじゃないですか。入り口はそこで良いと思うんです。そこから、史実に興味を持った人が調べて突き止めればいいんです。