2021年9月、28年ぶりにアサヒビールより販売され大きな話題を呼んだ『アサヒ生ビール』(通称マルエフ)。長らく飲食店でのみ提供されていた“幻のビール”だが、復刻発売をきっかけに、マルエフのまろやかなうまみの虜になったという酒飲みも多い。そして2月には『アサヒ生ビール黒生』が再登場。その『アサヒ生ビール黒生』を楽しむべく、『孤独のグルメ』原作者の久住昌之さんと、昔から『アサヒ生ビール黒生』が愛飲されているという東京下町・森下の人気酒場『もつ焼 稲垣 森下店』を訪れ、店長の稲垣氏と語り合った。
都営大江戸線・森下駅A3出口から徒歩30秒という好立地。渋い店構えも酒飲みの心をくすぐる
明るい時間から暖簾をかかげる居酒屋も多く、また東京下町の良心的な設定価格ゆえに、昔から飲兵衛から厚い支持を受ける街、江東区・森下界隈。『もつ焼 稲垣 森下店』は、都営大江戸線・森下駅A3出口から徒歩30秒という好立地だ。コロナ禍で開店時間が16時に早まったこともあり、まだ陽のある時間から酒飲みたちで賑わう。早速暖簾をくぐると、店内には、芳ばしい炭の香りが立ち込めている。
「はじめの一杯」で飲みたい黒ビール
『もつ焼 稲垣 森下店』で『アサヒ生ビール黒生』を堪能する久住さん
久住:僕は東京の下町とは正反対の場所にある、三鷹市で生まれ育ち、今もそこに住んでいます。いわゆる西東京が生活の基盤なので、何か用事がないと、東東京を訪れないんです。でも足を運べば、「せっかくだから飲んで行こう」という気分になりますね。そして、なんとなく下町全体、とくに森下界隈には「もつ煮込みと、もつ焼きがおいしい」というイメージがあります。稲垣には、コロナ前に一度伺ったことがあるんですが、結構酔っぱらってしまっていたせいか、あんまり覚えていなくて。「美味しかった」ということは覚えているんですが(笑)。壁の短冊メニューを見ると、もつ焼き以外にもいろいろメニューがあるんですね。
稲垣:「稲垣」は森下以外にも、本所吾妻橋の本店、押上の支店があるんですが、どこも森下店と同じように、もつ焼き以外の一品料理も揃っています。とくにそこに理由があるわけではなく、「昔からそうだった」みたいです。もつ焼だけのストイックな店のよさももちろんありますが、まあ、飲んでたらいろいろ食べたくなりますもんね(笑)。ちなみに、この短冊メニューは全部妻が書いてるんですよ。
久住:そうなんですね! 筆文字がすでにおいしそうで、メニューを見ているだけで楽しい気持ちになりますね。短冊の色も、やさしく、あたたかみがあっていいな。豆腐が大好きなので、まず『たぬき豆腐』に目がいきます。『きぬかつぎ』(里芋を皮のまま蒸した料理)なんかも、酒飲みにはたまらない。『I・F・C(イナガキ・フライド・チキン)』って、なんなんですか?(笑)。
稲垣:鶏の手羽先の唐揚げに、チリソースをかけたものです。「ビールが進むから」と、お客さんが入店直後に生と一緒に注文する人気メニューなんですよ。
久住:ネーミング遊んでますね。でも絶対ビールが進む。『なすピーみそ炒め』も気になるなあ。町中華で“なすみそ炒め”を頼んでも680円くらいはするのに、400円で食べられるなんて。安すぎますし、これまたビールに合いそうです。ちなみにビールは『マルエフ』を出されているんですか?
カラフルな短冊に達筆で書かれたメニュー
稲垣:はい、そうです。『マルエフ』は樽生で提供をしていて、とても人気があります。昨年9月に『マルエフ』の缶ビールが、復活販売されてからの反響は凄まじかったです。特に初めていらっしゃったお客さんは、ガッキー(新垣結衣さん)のポスターがお店に貼ってあるのを見て、「え、CMでやってるあのビールの生がここで飲めるの?」とみなさん興味を持って注文されていました。実は『黒生』も、以前はうちで樽生ビールを提供していたのですが、アサヒビールさんが終売を決定したために、苦渋の思いで、取り扱いを断念したんですよ。ですので、2月に市販の缶ビールも業務用の樽瓶も再販されてとてもうれしいです。『黒生』が発売されると知って、お客さんも喜んでいましたね。ウチはハーフ&ハーフも樽生で飲めるので、そのときの気分や料理に合わせて、『マルエフ』『黒生』『ハーフ&ハーフ』と使いわけて楽しんでほしいです。
久住:僕も発売に先立って、『黒生』を試飲させてもらったのですが、すごくおいしいですよね。僕にとって黒ビールは、ビアホールで途中で頼むものなのですが、『黒生』は、家で飲むのにもちょうどいいなと感じました。香りが良くて、きちんと黒ビールの味わいがするのに、飲んだ感じがスッキリしていて、やわらかい。黒ビールは、一杯目には向かないと思っていましたが、最初からでも飲みたい味です。
しっかりとした味わいが料理にも合わせやすい『アサヒ生ビール黒生』
店長と談笑しながら久住氏が選んだメニューが順に運ばれてくる。まずは『塩だれキャベツ』。そして店長おすすめの『セロリさっぱり漬』だ。
久住:僕は昔からキャベツが大好きで、お店でキャベツの料理を見つけると、なんとなく最初に頼んでしまうんですよ。塩ダレがキャベツと別添えなのがいいですね。そしてこの塩だれ、コショウが利いていて、おいしい。『セロリさっぱり漬』は、そのまま食べてもいいし、マヨネーズを付けて、味を変えられるのもいいですね。これ、人気なのわかります。大人はみんな好き。
最初の一品として店長がオススメするセロリさっぱり漬
稲垣:これらのシンプルな野菜料理も、ビールがすすむようにコショウを利かせたり、ちょっと工夫をしているんですよ。
久住:黒ビールは味も香りも個性が強いから、料理に合わせるのって難しいのかなって思ってたんですけど、キャベツもセロリも、ビールの美味しさを引き立ててくれますね。
次に運ばれてきたのは、人気メニューのもつ煮込みだ。
人気メニューのもつ煮込み。長ネギと青ネギが両方のっているのがうれしい
久住:(まずモツだけ食べてみて)……ん-、うん、はい、いや、こっれっは、美味しいモツ煮込み! ビールとまだ合わせてもいないのに、これだけで『黒生』1000杯は飲めちゃうんじゃないかな?という美味しさです(笑)。
稲垣:ありがとうございます。千葉の業者さんから届いた新鮮なガツをよく掃除してから、味噌ベースのスープで、じっくり煮込んでいます。
久住:こんにゃくとゴボウもめちゃくちゃ旨くなってる。ネギも、長ネギと青ネギの2種類添えられている! こういうのってちょっとしたことなんだけど、だんだん効いてくるんだ。みんなこれを頼むというのは、納得です。もつ煮込みに黒ビールを合わせるのは初めてですが、不思議なほどいいマッチングです。東東京の居酒屋モツ煮、やはり恐るべしです。
そしていよいよ看板メニューであるもつ焼の登場。久住氏が頼んだのはシロタレとハツの塩だ。
濃厚なタレで焼かれたシロタレは『アサヒ生ビール黒生』との相性バツグン!
久住:もつ焼屋さんではたいがい最初にシロタレを頼んじゃいますね。なんかその店の方針が感じられる気がして。タレのもつ焼きは、『黒生』とも合いますね。普段、ビアホールでしか黒ビールを飲まないから、これは発見でした。タレはずっと使い続けているものなんですか?
稲垣:開店以来、注ぎ足し注ぎ足ししながらずっと同じものを使っています。
久住:すごい、水あめみたいな粘り気!
粘り気のあるタレは開店以来注ぎ足されて使い続けられている
稲垣:昔から「もつ焼きにビールが合うのは、当然でしょ!」と思ってはいたんですけど、僕も久々に『黒生』を飲んで、うちのタレとの相性がいいことに、改めて気付かされました。あとは先ほど久住さんがおっしゃったように、黒ビールでありながら味わいがまろやかなので、このハツのように、塩のもつ焼きにも合わせやすいんですよ。『黒生』の再登場で、さらにうちのもつ焼きの楽しみ方が広がった気がしています。
『マルエフ』は時代の空気に合っていた
久住:『マルエフ』がヒットしたのはきっと時代の空気に合っていたんでしょうね。15年くらい前から個性的な味わいのクラフトビールが人気になったけど、クラフトビールって結構高いから気軽には飲みづらい。コロナ禍で家飲みをする人が増えるなかで、昔ながらのビールの味がして苦みも香りもあるけど、クセが強すぎなくて、手ごろな値段で。冷やしすぎないで、ビール本来の苦味や甘味や香りを楽しむのには、ボクにとって最適なビールです。
稲垣:まだまだ飲食店でわいわい飲むのは難しい時ですけど、缶で『マルエフ』を飲んで好きになった人が飲食店で樽生を飲んで、飲食店で樽生を飲んだ人が缶を買って家で飲んで、というように家でも外でも『マルエフ』を楽しんでくれたらいいですね。
久住:早く気兼ねなく店で語らい、ビールが楽しめる未来が訪れるように。そう願いつつ、自宅では缶の『マルエフ』を楽しむことにします。
(取材/岡野孝次 撮影/加藤 岳)
<提供/アサヒビール>