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ウクライナでの事変は対岸の火事ではない。最後の猶予期間だ/倉山満

本当にプーチンがジェノサイドを考えていたら––

 最近、ロシアの「虐殺」が世界的な話題となっている。ロシア軍がウクライナの民間人を惨たらしく殺した。これは間違いのない事実だろう。ウクライナは「プーチンのジェノサイドだ」と危機感を訴える。  私はウクライナの立場を理解する。だが、本当にプーチンがウクライナのジェノサイドを考えているのなら、話は極めて深刻だ。  そもそも、「虐殺」と言っても、どの意味の虐殺なのか。「ロシア軍がウクライナの民間人を惨たらしく殺した」という事実は、massacreだ。あってはならない悲劇ではあるが、残念ながら戦場には付き物だ。最大の責任は現場指揮官にある。  それに対してgenocideとは、「ある民族の殲滅を目的として行われる大量虐殺」だ。最大の責任は、ロシアの独裁者であるウラジーミル・プーチンにある。  仮にプーチンがジェノサイドを考えていたとしよう。並大抵の打撃では引かないだろう。それどころか、「敗走間際の独裁者が敵対民族の大量殺戮を行う」のは世の常だ。ジェノサイドが目的の場合、戦争そっちのけで殺戮を始めかねない。

ウクライナでの事変は、対岸の火事ではない。最後の猶予期間だ

 本当にプーチンがウクライナ人の殲滅を考えているのなら、そもそも和平交渉が成立するのか?  ウクライナでの事変は対岸の火事ではない。我々が軍備を整えるまでの時間稼ぎ、最後の猶予期間だ。  各国はどう考えているか。  米英は、「表立って一緒に戦う」以外のすべての行動を採っている。徹底してシラを切りとおすが、事実上の交戦国だ。カナダも米英に追随している。  同じサミット参加国でも仏独伊は温度差がある。特にドイツなどは、どこまで本気でロシアを制裁するか疑わしい行動もあった。だが、今次事変を奇貨として「今後は毎年防衛費GDP2%」「世界第3位の軍事大国になる」と与野党合意で決定した。日本が見習うべき姿勢ではないか。  中国は、平時ではロシアの同盟国のように振舞いながら、今次事変では厳正中立。上手く立ち回り、存在感を高めている。
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ウクライナが安全保障のため指名した国々から外れた日本
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1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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