更新日:2022年07月08日 21:39
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安倍元首相銃撃「なぜ民主政治が優れているか。人が殺されない、ただその一点だ」/倉山満

戦前日本人は、長い時間をかけて暴力による政変を否定した

岸田首相

安倍晋三元総理襲撃についての会見で答える岸田文雄首相 写真/首相官邸ホームページより

 同じように1931(昭和6)年、立憲民政党を率いていた浜口雄幸首相が狙撃されたことがあった。一命はとりとめたが、容体が悪化し退陣に至った。この時も後継総理は、民政党後継総裁となった若槻礼次郎が継いだ。「暗殺による政変を許さない」は習律となっていた。習律とは、法律の条文に書かれていないが、破れない慣行のことである。戦前日本人は、政治の変革は選挙によるのであって、決して暴力によるべきではないとの法的確信を持つに至った。1881(明治14)年に政党が成立して以来、40年50年をかけて。  浜口遭難の翌年の1932(昭和7)年、5.15事件において白昼堂々、時の犬養毅首相が首相官邸で青年将校に暗殺された。当然、後継総理は、後継与党総裁がなるはずだった。ところが政党政治の腐敗と失政に世論は怒っており、国民の多数はテロリストを賛美する有様だった。ここに「憲政の常道」は失われた。

選挙による民意を暴力によって転覆した「2.26事件」

 その後の坂道を転がり落ちるような日本の歴史は御存じの通りだ。有名な2.26事件はこの4年後になる。ちなみに、事件が起こる1週間前の2月20日は総選挙が行われ、時の岡田啓介内閣の与党である民政党が勝利した。しかし、軍の青年将校は暴動を起こし政府高官の多数を暗殺。結果、岡田内閣は退陣に至った。2.26事件とは、選挙による民意を、暴力によって転覆した事件だった。  これを機に、近代日本人がテロによる政治を否定する民意を持ちながら、失った悲劇を思い起こしたいものだ。  重ね重ね、安倍元首相のご回復を祈る。
1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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