仕事

ラブレター1通1万円。IT企業の部長が「ラブレター代筆屋」の副業を続けるワケ

「自分自身への手紙を書いてほしい」

ファイル

書き上げたラブレターの文面や、依頼の内容をまとめたファイル

 相手を知り、理解して書く。その意味でもっともハードだった依頼は、「依頼人自身への手紙」だ。 「その方からの依頼は、『私になりきって、私自身に書いてほしい』というものでした。複雑な家庭に生まれ、両親を亡くして施設で育った方で。子供の頃から自分に自信が無く、ご両親がいないのもあって人から褒められた記憶が無いと。心が未成熟のまま体だけ大人になってしまって、周囲との関係性や仕事に支障が出ていると仰っていました。そんな境遇でも頑張って数十年生きてきたから、自分自身を励ます手紙を書いてほしいとのことでした」  依頼人になりきって書く。初めてのシチュエーションへの戸惑いもさることながら、小林さんを悩ませたのは“依頼人への理解”だった。 「その方の境遇と、僕が歩んできた人生はまったく違うので、最初は深く理解することが難しかったです。最大限理解できるように、いろいろ質問したりゆっくり話したりしました。話を聞いていると、その方の人生は三部に分かれている感じだったんですよ。子供時代、新社会人時代、大人になってから。それぞれで送るメッセージが違うなと思って、各年代のその人に送るイメージで三通書きました」  普段は作った文面をWordファイルで送っているが、その時は小林さん自ら便箋を買い、直接したためてポストに投函したという。 「反応としては、『読んでいて非常に理解してもらえた感じがしたし、涙が出ました』と。喜んでもらえたのかな。この方のように、復縁以外の依頼も多いです。『相手には渡さないけど、自分の中で気持ちに区切りを付けるために書いてほしい』といった依頼もありますね」

「気持ち悪い仕事だな」と批判も

著書

2016年にインプレスブックスより出版した著書。現在は絶版になっており、電子書籍でのみ読める

 一人ひとりの依頼者と向き合いながら続けていくうちに、TVや新聞で取り上げられるようになった。代筆屋を始めて2年経った頃には、活動をまとめた本も出版。だが活動が注目されるにつれ、ネガティブな意見が寄せられるようになったという。 「SNS上で『気持ち悪い仕事だな』『ラブレターは自分で書いてこそだろ』といった反応が来ることはあります。会社の近しい人たちからは『変なことやってんな』って空気を感じたり。本を出したことで陰口も叩かれていたようです。褒められるためにやっているわけじゃないし、理解されにくい仕事だと分かっていますが、たまに寂しく思う時がありますね。でも新聞に載ったり本を出したりした時は、親が凄く喜んでくれました」  ラブレターを渡したあとの結果報告が来ることも稀だ。依頼完了時には感謝の言葉をもらえるが、依頼人のその後を小林さんが知ることは少ない。 「こちらから『どうでした?』と聞くことは無いですね。『ダメでした』って言われるのも気まずいので(笑)。あえて深追いはしないけど、気にはなります」
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代筆屋になったからこそ手にしたモノ
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福岡県出身。フリーライター。龍谷大学大学院修了。キャバ嬢・ホステスとして11年勤務。コスプレやポールダンスなど、サブカル・アングラ文化にも精通。X(旧Twitter):@0ElectricSheep0、Instagram:@0ElectricSheep0

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