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日本人の靴選びは「ユルすぎ」「大きすぎ」で大失敗。ケガや事故の元にも

日本人の「幅広甲高」信仰は誤り

私が1万人以上の足を見てきたなかで、幅広の3Eの方はかなり少数派でした。女性ならD(やや細)、男性ならEか2Eあたりが一番多い。しかし計っただけの数値も目安のひとつです。皮下脂肪の多い2Eと、筋肉で引き締まった2E、ケガや老化で骨のアーチが落ちてしまった2Eでは、提案する靴がまったく異なってきます。 私はメジャーをあまり使わず、断ったうえで足を直接さわります。骨のつき方、靭帯と筋肉のつき具合、アーチの落ち方など、多量のデータが得られるからです。「あ、この靴のこのサイズはムリだな」と感じた瞬間に、逆算してこのサイズで試してもらおうと即座に判断します。もちろんこんなことはマニュアル外ですが、靴をたくさん履いてフィッティングしてもらうのは、お客様のためになりません。なぜなら、感覚に集中できるのは一度に3足までが限界だからです。それ以上は、感覚がマヒして、何が正解かわからなくなってしまいます。 裏話ですが、シューフィッターはそもそも靴のサイズ表記を信じていません。たとえば「25㎝」と書かれてある靴の長さを測っても、つまさきの余裕を差し引いても25㎝ではないからです。メーカーによっても統一性はありませんし、同じメーカーでもデザインがちがってくると全然ちがってきます。加えて靴も工業製品とはいえかなりの部分で人の手が入っているので、生き物のように個体差もあります。大きな声では言えませんが、靴メーカーや、ショップの恣意的な表記がまかりとおっていることも……。 私が靴メーカーで靴を設計していたときのエピソードです。ある婦人靴の元型に「24㎝」と明記されていて、幅を測ってみると「E」。この靴は「24㎝のE表記でいいですね」とメーカーに確認すると、「それ、23㎝の3E表記にしてください。そのほうが売れるので」と驚きの返答が。理由は「ご婦人は大きいサイズを恥ずかしがるので実際よりもサイズ表記は小さめに、幅は広いほうが好まれるので3Eに」ということでした。実際、その靴がよく売れる状況を見て、複雑な心境でした。こういった裏事情はよくあることなので、腕のいいシューフィッターや目の肥えたお客様はメーカーのサイズ表記を信じていません。「足の感覚が一番大事」という理由はこんな事情もあるからです。
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Amazonの販売ページより

閑話休題。日本人の幅広信仰はかなりの重傷で、ひとまず靴に3Eと書いてあればよく売れるので、「とにかく靴を売りたいメーカー&店舗」と「幅広ならたぶん痛くないだろう」という消費者の間で負のループが発生し、無暗に「ユルすぎる靴」が売られ、買われてしまうのです。最近では、「超幅広の5E!」なんていう靴まで見かけるようになりました。 まず5Eなんていう足のサイズの持ち主は、ほとんどいません。私が数万人計測した中でも、力士の方やハンディキャップをお持ちの方など、ほんの数人だけでした。一般向けにこのような論外の靴を設計するメーカーがどんなものかは想像がつくでしょう。実際に私も履いてみましたが、どこにも支えのポイントがない不安定な靴で、もはや軽いホラー状態でした。妊婦の方やシニアで靴の脱ぎ履きが困難な方、シンプルに靴の脱ぎ履きが多い方にはセダークレストの「スパットシューズ」など、ハンズフリーで履けるいい靴があるので、こちらを履いてみてください。
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セダークレスト「スパットシューズ」。紐はダミー。立ったまま履けて、しかも脱げない

安易に買った「ユルすぎる靴」は、つまづきの累積で底がはがれ、エレベーターや電車の挟まれなど大事故にもつながります。せっかく買った旅行用の靴がユルすぎて気づけば大きな靴ずれになり、歩行困難になるなんて笑えたものではありません。足と靴のサイズは、車に乗る人とシートベルトのような関係です。ユルすぎてはいざというときに命も守れません。ご注意を。 <文/シューフィッターこまつ>
こまつ(本名・佐藤靖青〈さとうせいしょう〉)。イギリスのノーサンプトンで靴を学び、20代で靴の設計、30代からリペアの世界へ。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。HPは「全国どこでもシューフィッターこまつ」 靴のブログを毎日書いてます。「毎日靴ブログ@こまつ
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