ライフ

一見つまらない人でも、掘り下げれば面白い引き出しを持っているものだ

おっさんは突如、遠回りを指示してきた

 無言の時間が続く。  アスファルトとタイヤが擦れる音だけが車内に響き、周囲の景色は山深いものへと変わっていった。県境の峠越えに差し掛かったのだ。 「ちょっとさ、そこの脇に入る道あるでしょ、そこ入っていてみてくれない?」  突如として、そのつまらないおっさんが切り出した。  いま走っている峠越えの国道から逸れて脇道に入れというのだ。確かに、その先には旧道みたいな感じの道路が脇に伸びていた。ほとんど通る車もないのか、荒れ果て、ところどころひび割れたアスファルトから緑色の雑草が顔を覗かせていた。 「え、こんなとこに入るんですか? 遠回りになっちゃいますよ、そもそも行き止まりとかになりませんか?」  僕の言葉に、つまらないおっさんは黙って首を横に振った。 「大丈夫だ。多少は遠回りになるが、ちゃんと目的地までいける」 「っていうか、ここ通ったことあるんですか?」 「ある」

めちゃくちゃ面白い話が始まる予感がした

 こんな山奥の峠道、しかもその脇道を通ったことがあるという。もちろん、彼が住んでいる場所からも、出身地の栃木県からも遠い。どうしてこんな場所を通ったことがあるというのだ。なんだか俄然、彼に対して興味が湧いてきた。 「君は、うどんのないうどん屋を見たことがあるか」  おっさんは突然、そんなことを言い始めた。うどんのないうどん屋? さっぱりわからない。 「この先にはそれがある」  おいおい、めちゃくちゃ面白い導入をもった話ができるじゃないか。  俄然に興味が出てきた僕は颯爽とハンドルを切り、脇道へと侵入していった。  そこは覆いかぶさった木々が日陰を作っていて、昼間なのに夜の細い道が延々と続く道路だった。左右の雑草も荒れ果てていて、ほとんど通る車もないことがわかる。 「なんでここを通ったことがあるかというと、ネットで知り合った女に会いに行ったんだよ」  めちゃくちゃ面白い話が始まりそうな予感に胸が高鳴った。  おっさんは切々と語り始めた。
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おっさんとうどん屋の因縁
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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