ライフ

一見つまらない人でも、掘り下げれば面白い引き出しを持っているものだ

そこにいた女性はとんでもない依頼をしてきた

 恐る恐る中に入ると店内には女性がいた。少しくたびれたエプロンを付けた女性は忙しそうに片づけをしていた。 「もしかしてサイトの方ですか?」  おっさんの存在を確認して女性はパッと表情が明るくなった。見ると、女性の傍らには小さな子どもが立っていた。 「はい」  恐る恐る答える。半信半疑ながらも、ほのかなエロスみたいな期待もあった。けれども、件の女性が子ども連れであったことから、その仄かな期待すら脆くも崩れ去った。  そんなおっさんとは逆に、女性は満面の笑みを見せた。 「よかったあ。実はですね、わたし、これから迎えが来るんです。でも、この店は6時まで開けていないと怒られるし、ということで、店番をお願いできませんか?」  とんでもない依頼だ。  彼女は車を持っていないらしく、彼氏か旦那か知らないけど、男が送迎をしていたらしい。その迎えが、様々な事情で今日は4時半にやってくるらしい。おっさんがチラリと時計を見ると、もう時間は4時に差し掛かろうとしていた。

話は無理やり店番をさせられただけでは終わらなかった

 けれども、このうどん店のオーナーはなかなか厳しい人らしく、早めに店じまいもできないらしい。客が来ないからと早めに店じまいをしたことがバレると、烈火のごとく怒られ、給料からかなりの額が差し引かれるらしい。  早く店じまいしないと迎えがきてしまう、でもそれはできない。色々と考えた結果、出会い系サイトで男を呼んで店番をさせようと思いついたらしい。その辺の思考の飛躍具合は恐ろしいものがあるけど、とにかくそういうものらしい。 「いやいや、無理でしょ。うどんなんて作れないし」  知らない店の店番なんて絶対に無理だとおっさんは断る。 「大丈夫です。お客なんてこないですから」  じゃあ店を閉めろよ、と思うのだけどそういうわけにはいかないらしい。  結局、彼女は全ての片づけを済ませ、小さな金庫をもって、やってきた送迎の車に子どもと一緒に乗り込んだらしい。6時になったら電気を消して鍵を閉め、水道栓の中にその鍵を隠すように指示されたようだ。 「とんでもない話ですね」 「普通、出会い系サイトで店番を探さないだろ」  出会い系サイトで会う約束をしてノコノコと山奥に行ったらウドン屋の店番をすることになった。このおっさん、こんなに面白いエピソードを持っていたのか。 「ただ、この話はここで終わりじゃない。さらに不幸なことがあった」  おいおい、これだけでも面白いのにまだあんのかよ。
次のページ
絶対に客が来ないかと思いきや
1
2
3
4
5
6
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


記事一覧へ
おすすめ記事