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一見つまらない人でも、掘り下げれば面白い引き出しを持っているものだ

僕はもっと覗きたかった。おっさんの引き出しを

「この先にそのうどん屋がある。果たして今も営業しているのか」  それにしても、おっさん、めちゃくちゃ面白いエピソードを持っている。知らない人との移動で、退屈で苦痛かもしれないと感じていたけど、あっという間にもう目的地が近い場所まで来ていた。あとはうどん屋の現在を確認して目的地に向かうだけだ。  退屈だと思える人は、その人の退屈な一面しか見せてもらえていない可能性がある。本当はもっと奥深く、面白い部分を隠し持っているのかもしれない。 「うどん屋、潰れていますね」  問題の場所は、更地になっていた。うどん屋の看板すらなくなっていた。 「そりゃそうだよな」  少々の遠回りになったが、また、目的地に向かって走り出す。 「そういや」  すっかり打ち解けた僕ら、僕が話はじめる。 「さっき、うどんを探したら冷凍の餃子しかなかったって話なんですけど、宇都宮にはですね、餃子ウドンってやつを出す店がありまして、餃子の皮の残皮でつくった麺に、つけ麺みたいにして食べるんですよ。さすが餃子の街、宇都宮ですよね。」  と切り出すと、おっさんが答えた。 「宇都宮? 知らない」  宇都宮を知らないなんてことありえないだろ。おっさんはまた憮然と黙って、彼の退屈な一面を僕に見せていた。打ち解けたと思ったのになんなんだよコイツ。  おわり。 <ロゴ/薊>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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