ライフ

一見つまらない人でも、掘り下げれば面白い引き出しを持っているものだ

おっさんとうどん屋の因縁

 もうずいぶんと昔の話だ。  出会い系サイトに夢中だったおっさんは、とある女性と会う約束を取り付けた。しかしながら、その女性が指定した待ち合わせ場所がおかしかった。普通なら分かりやすい繁華街などを指定するだろうし、郊外のファミレスやコンビニの駐車場などを指定するらしいのだけど、彼女が指定してきたのがこの峠道の脇道だった。  当時は出会い系サイトで男を呼び出してネットで笑いものにするというイタズラが流行っていて、よりありえない場所に呼び出すほどポイントが高いみたいな風潮があった。最終列車の行ってしまった辺境の無人駅だとか、誰もいない海岸だとかそういった罠が存在した。おっさんは、そういった類のイタズラだろうと思って取り合わなかった。  しかし、相手の女性の異様な熱意というか、必死さというか、それがなんとなくリアルだった。イタズラならすぐに諦めて別のターゲットに移りそうなものなのに、彼女はそれをしなかった。どうしても来て欲しいという気概みたいなものを感じた。  そういった類のイタズラは深夜に呼び出されることが多かったのに対し、彼女が指定した時間は、まだ日が昇っている時間だった。地図で見ても民家すらなさそうな場所に呼び出す彼女に興味がわいた。イタズラならそれでいい、どんなイタズラか見届けてやろうじゃないか。彼はそんな気持ちで車を走らせた。

指示どおりに車を走らせるとそこには……

「○○峠の手前に分岐があるから、そこまできたら分岐を旧道のほうに」  当時は、メインの国道の方も工事が完了しておらず、この旧道は今ほど脇道という感じではなく、そこそこ交通量があったらしい。 「旧道を進んでしばらく走ると森を抜けて、そこの先に地蔵があるから、その地蔵を目印に西に、そうしたら使われていない自動販売機が見えてくるから」  もはや出会い系サイトの待ち合わせではなく、RPGのダンジョン探しみたいな指示になっていたらしい。 「その先の道にうどん屋があるから、そこで待ち合わせしましょう」  おっさんは、こりゃあ、やはりイタズラだなと思った。メインの国道から逸れる旧道、その先にうどん屋があるはずがない。そもそも出会い系サイトの待ち合わせがうどん屋という時点で色々とおかしい。こりゃイタズラだ。けれども、ここまできたらどうしても見届けたくなったようで、もう、行くしかなかった。  何時間かかかって、峠の脇道へと差し掛かった。ちょうどいま僕たちが見ている鬱蒼とした林を脇に眺めながら車を走らせた。すると、本当にその先にうどん屋があった。木製のロッジ風の佇まいでデカデカと「うどん」と相撲取りみたいなフォントで書かれた看板が立っていた。 「まさかこんな山奥にうどん屋があるとは思わないだろ。でもあったんだ。そして営業していた」
次のページ
そこにいた女性はとんでもない依頼をしてきた
1
2
3
4
5
6
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


記事一覧へ
おすすめ記事