ニュース

“アニメのセル画を文化庁が買い取る”取り組みに賛否…「運営できる人材がいない」

麻生太郎氏の「巨大国営マンガ喫茶」、その後は…

 不信の背景には、これまでも同様の「ハコモノ」が計画されては頓挫してきた経緯がある。  記憶に残るのは2009年に当時の麻生太郎首相がぶち上げた「国立メディア芸術総合センター」だ。これは117億円を投じて、アニメやマンガ、ゲームに関する作品や情報の収集・保存する施設を建設するというもの。年間60万人の来場を想定したこの施設は「巨大国営マンガ喫茶」と批判され、業界からも「そんなことよりも、アニメ業界の待遇改善が必要」と集中砲火を浴び、2009年に民主党政権が誕生すると予算見直しの一環として中止された。  しかし、その後も同様の施設を求める動きは続いている。2015年には超党派でつくるマンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟(通称:MANGA議連)が「MANGAナショナル・センター構想の早期実現を求める緊急決議」を発表し、2020年春までに完成を目指すとした。  これは、秋葉原周辺に展示施設、それとは別に地域未定で収蔵施設をつくり、国会図書館の支部として外部に委託して運営するというもの。委託先としては明治大学が想定されていた。この構想も当時は注目を集めたものの、その後は進展のないまま、現在に至っている。

ハコモノができても「運営できる人材はいない」

 図書館問題研究会委員長などを歴任した西河内靖泰氏は、原画や資料の散逸を防ぐために保存施設は必要とはしながらも、現実には困難だと語る。最大の問題は、資料を購入し、施設を運営する予算と人材の確保だ。 「先日、国立科学博物館が運営費用を確保するために1億円目標のクラウドファンディングを行い話題になりました。国立科学博物館のような施設ですら資金難なのに、ハコモノをつくっても十分な運営予算を確保できるとは思えません」  さらに、ハコモノができても運営できる人材はいないと、西河内さんは指摘する。 「マンガ研究は盛んにおこなわれていますが、マンガやアニメの資料の収集・保存に関する“専門家”は存在しません。麻生政権の構想から10年以上が経ちましたが、いまだに、そうした資料の収集・保存を教える大学はなく人材の育成がおこなわれていないからです」
次のページ
現実的なラインは“麻生漫画博物館”?
1
2
3
ルポライター。1975年岡山県に生まれる。県立金川高等学校を卒業後、上京。立正大学文学部史学科卒業。東京大学情報学環教育部修了。ルポライターとして様々な媒体に寄稿。著書に『コミックばかり読まないで』『これでいいのか岡山』

記事一覧へ
おすすめ記事
ハッシュタグ