財政では、畿内で班田収授を実施した。つまり都の周辺で戸籍を集計した上で徴税した。結果、税の不公平を解消し政府財源を確保した。 文化面では唐風文化が花開いた。自身も漢詩の達人であるだけでなく、『凌雲集』『文華秀麗集』『経国集』の三つの勅撰漢詩集が編纂された。最後の遣唐使が送られたのも、嵯峨帝が上皇の時代である。 それでいながら、国風文化にも道を開いた。疫病が大流行した際に、黄金の墨で筆写した般若心経をはじめ、嵯峨天皇の真筆が現代に伝わる。天台宗を開いた最澄は庇護され、総本山の比叡山延暦寺は長らく日本仏教と学問の中心地となった。真言宗を開いた空海は天皇のブレーンであった。二人とも、嵯峨天皇の御世に遣唐使として留学している。嵯峨天皇は仏教だけでなく、神道や儒学も保護、多文化の融和を旨とする日本文化のパトロンとなった。 嵯峨天皇は50人に及ぶ子供に恵まれ、多くが臣籍降下、嵯峨源氏として皇室の藩屛となった。賜姓源氏の初めである。 その治世は13年、その後上皇として君臨していた時期は19年。独裁者として振舞おうと思えばいくらでもできたが、現実政治は臣下に任せ、自らは超越した権威として君臨した。 イギリスのマグナカルタより400年早く、立憲君主制を実現した。 これほど偉大な君主がいたと、日本人全員知るべきである。 ※9月28日時点で執筆した原稿です1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』（扶桑社新書）が発売中