寝る間も惜しんで働く夫ほどお金だけ取られ子に会えない
「結局、離婚調停でも、その話が独り歩きします。裁判所も‟DVがあったんでしょう”までは言えないけども、先入観から、
別居している夫には、親権は難しいとなる。裁判所が従来から持っている、“
物理的に子どもと関わってきた時間の長さはどっちが長いか”という基準を使われちゃうと、ほぼ親権者は母親に決まっちゃうわけですよ。寝る間も惜しんで働く、海外出張も多いような旦那さんほど、お金だけ取られて、全く子どもの養育に参加できない状況ができてしまうんです」
「先に自分が子供を連れて家を出た夫の弁護をしました。妻には、メールで事情を説明し、ここで子どもと暮らすと告げていました。奥さんから子の監護者指定や子の引き渡し審判を申し立てられたんです。そのときに出廷したら、裁判官が開口一番、そのお父さんに“
あなたが子供を引き取って何ができるんだ”というんです。まだ何も書面も出していないのに。ここは“公平な裁判所なのか”と思いました。そのケースでは、奥さんはDVをしたとは言ってなかったんだけど、それでも裁判所がそういう先入観を持っているっていうのが恐ろしい」
岩本氏が担当したケースではこんなものもあった。
「その案件では、身体的暴力は認定できなかったんです。ただ子供を連れ去った奥さんは、5~6年前に2回ぐらい突き飛ばされたことがあると言う。だけど、主たる訴えはそうではない。奥さんが、金銭管理が苦手で、旦那さんがしている家庭でした。ある日、突然、その奥さんが、旦那に内緒でお金を継続的にいくらか使っていることが発覚したんです」
そのときに、当然、夫婦で1時間ほど口論になった。夫が「夫婦でした約束を、黙って破るなんて信用問題じゃないか」「家族に対する背信行為じゃないか」と妻を責めた。妻は妻で「自分の母親に対しての小遣いを送金していたし、自分にも正当性があるんだ」と言い返した。
夫が一方的に責めたわけではない、言い合いだった。
「それをなぜか録音されていた。というのは、その数ヶ月前に、奥さんはDV相談窓口に行っていたらしいんです。そこで、何とか旦那さんとの会話を録音しろとアドバイスを受けたのでしょう。録音があったのは、その1時間半の口論のみ。聞いていると、ただの言い合いでした。奥さんはそれがモラハラだと言い出し、警察を呼んで子どもを連れてシェルターに入ってしまいました。当然、旦那さんは子どもがどこに行ったかを知ることが出来なくなりました」
結局、その夫は、妻に監護権を取られてしまい、現在も係争中だ。そういった妻の一方的なDV申告によって、
子ども(親権、監護権、面会交流権)と
金(婚姻費用、養育費、財産分与、慰謝料)を取られている男性は、
年間約15万人に上ると岩本氏は推計する。
「配偶者暴力相談支援センター(市町村設置)の相談件数と内閣府設置の相談窓口(DVプラス)の相談件数を合わせると、15万件以上になりますね。もちろん15万件のなかには、
本当に保護と金銭的な支援が必要な母子も含まれていますが、ここに相談にいけば、相手方の言い分を聞くこともなく、住所の秘匿やシェルター保護が実施されます」
相談件数の推移を説明する岩本弁護士
逆に、
地方裁判所でやっているDV保護命令申立の制度を利用する人は少ない。なぜなら、その制度を利用すると、加害者とされた側は、法廷に出て反論の機会が与えられるからだ。証拠がなければ却下される。
「役所にある配偶者暴力相談支援センターの相談件数の推移は、平成28年度で12万件です。一方で、地方裁判所の”配偶者暴力等に関する法務事件の処理状況等”は、同年で2,632件しかありません。このデータは神奈川県だけの件数です」
立教大学卒経済学部経営学科卒。「
あいである広場」の編集長兼ライターとして、主に介護・障害福祉・医療・少数民族など、社会的マイノリティの当事者・支援者の取材記事を執筆。現在、介護・福祉メディアで連載や集英社オンラインに寄稿している。X(旧ツイッター):
@Thepowerofdive1記事一覧へ