更新日:2024年04月28日 10:11
エンタメ

刑務所ライブ500回超。“受刑者のアイドル”仕掛け人の信念「車と家を売って資金を捻出」

「田舎の不良」だった時代に現在の軸となる気づきが

 爪に火を灯すような厳しい生活のなかで、片山氏はたとえ過酷な状況でも誰かしらが手を差し伸べてくれれば、人はまた這い上がれることを知った。同時に、母から言われた言葉も胸に残っているという。 「典型的な田舎の不良でした。15歳で女性を知って、しょっちゅう女性と遊ぶようになると、母は私に『お前は必ず女で失敗するよ。でもそれは自覚しないと周りがいくら言っても直らない』と言いました。当時は気にしませんでしたが、のちのち、妙にその言葉が腑に落ちるようになりました。私の根底には、『人は、最終的に本人が自覚しなければ、良い方向へはいかない』というのがあるかもしれないですね」  犯罪者の更生に限らず、人が立ち直ることについて、周囲の理解と本人の自覚を二項対立であるかのように扱う論調がある。だが片山氏は若い頃すでに、どちらも必要であることを身をもって経験していたのかもしれない。

過去の行いは許されることではないが…

 その後、当時難関とされた「高等学校の普通科であれば入学させてやる」という父の言葉で奮起し、合格を手にした。生活費を稼ぐため、アルバイトをしながら通った。 「市内を循環するバスの車掌をやっていました。当時のバスには切符を受け取ったりドアの開け閉めをする車掌という仕事がありました。給料がよくて、同じような境遇の学生にとっては奨学金代わりみたいなアルバイトでした。ああいう仕事を与えてもらえるのも、ありがたかったですね。  自分が困っているときに、必ず誰かや社会の仕組みが助けてくれたから、私も誰かの役に立ちたいという思いはずっと持っています。受刑者の過去の行いは決して許されることではありません。しかし犯罪に至るまでには、本人が何かに困窮して、しかも誰からも手を差し伸べられなかった不幸な状況があったと思うんです。そういうものを何とかできないかな、とは常に考えています」
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活動費用のために「車や家を売却した」
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ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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