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「舌がん」ステージ4から50代で転職活動。5年生存率“約16%”でも開き直れたワケ

―[M.C. BOO]―
ラップユニット「脱線3」のメンバーとしてメジャーデビュー。その後は音楽活動のほか、外資系ブランドのプロモーションやイベント制作など、多岐に渡る仕事を手がけてきたM.C. BOOさん。
M.C. BOO

かつてBeastie Boys(ビースティ・ボーイズ)と共演を果たし、全米デビューを果たしたM.C. BOOさん

しかし、2019年に突如としてステージ4の「舌がん」を宣告され、入院を余儀なくされた。人生の岐路に立たされたM.C. BOOさんにとって、闘病生活の支えになったのは「ヒップホップ魂」だったという。 【前回記事】⇒口内炎と思いきや「舌がん」ステージ4。人気ヒップホップMCの“その後”「人生が暗転したような気分だった」 今回は社会復帰から50代を迎えて再就職に向けて動いた際の苦労や葛藤、新しい挑戦について話を聞いた。(記事は全2回の2回目)

「今までの人生が幸せだと思えたからこそ」生存率約16%でも吹っ切れた

「ステージ4の舌がんはどのくらいで治るのか?」 そう医師に聞いたところ、返ってきたのは「自分で調べてください」という答えだった。そこからは舌がんの情報を探し求めて、ひたすらネットで調べたという。 「がんを言い渡された人であれば、誰でもそうだと思うんですけど、日本だけでなく海外の文献も調べたりしていました。Webの記事が出ていなければ、PDFの論文もGoogle翻訳をかけ、色々と情報集めをしたんです。 そこで感じたのは、身になる情報もあれば、詐欺まがいや怪しい宗教団体の情報もある。藁をもすがる思いの人たちにとって、あらためてWebの記事がすごく重要だと思ったんです」 情報をたどるなかでわかったのは、「ステージ4の舌がんは生存率が約16%」ということだった。手術に差し支えがあるため、大好きなお酒もしばらく飲めない。 それでも、「今を大事に生きて、治療に専念しよう」と吹っ切れた。 「日本人は2人に1人の割合でがんになり、がんのステージ4の5年生存率は約16%と言われています。一方で、僕が人間として生まれてくる確率や、アメリカの超人気グループ(ビースティ・ボーイズ)と仲良くなって全米デビューする確率、吉本興業やソニーに所属して音楽活動できる確率で言えば、僕は16%よりも少ない確率の中で生きてきたわけです。 だから、もしも死んでしまったら仕方がないと。それよりも、今まで人生が幸せだったことは間違いないわけだから、その思いを噛みしめて、前を向くしかないと開き直ったんです」

ラップをやってきたのに喋れなくなるかも…「医者の言葉を信用するしかなかった」

手術痕

腕には皮膚を移植手術した痕が残る

がん宣告の直後はベッドが空いておらず、結局M.C. BOOさんが入院したのはそれから1ヶ月後のことだった。 それまでの間は実家に帰省して、家族に事情を説明していたという。 「家族はものすごく心配してくれましたが、妻だけは全く弱音を吐かなかったんです。『昨日も検索ばかりして、泣きながら寝られなかったよ』と伝えると、『そらそうだよね。別に気にしなくていいんじゃないの』とポジティブに返答してくれて。 僕がいる前では、決してネガティブなことを言わなかった妻と、仕事終わりに面会に来てくれた弟には、闘病中もすごく支えられたなと思っています」 M.C. BOOさんが入院したのは、がん宣告から1ヶ月後のことだった。ここから、闘病生活が始まる。 がんの再発を防ぐために舌の3分の1を摘出して、左手の血管と皮を移植したほか、リンパ節にできた2つのしこりを切り、太ももから皮膚を取ってきて移植を施す手術を受けた。 術後は2週間くらいは喋れずに筆談生活を送っていたM.C. BOOさん。 「ラップをやってきた身として、話せなくなるのはとても悲しかった」 そう思っていたそうだが、「絶対に治るし、喋れるようになる」という医者の言葉を信用するしかなかったそうだ。 「堀ちえみさんも退院されたときは、カタコトだけど喋れていたんで、そのくらいは自分も喋れるようになるだろうと思っていました。ただ、舌のがんを摘出してもしこりの中に癌があれば、抗がん剤治療が始まるので、正直に言って“運任せ”の部分もありました」
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入院中の様子
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1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている

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