仕事

「客単価は2,000円」“ガンダムオタク”に愛されたバーの店主が、「値上げができず、閉店を決意した」理由

コンセプトが固まっていたから、10年間続けられた

激戦区で長期経営ができた理由について、ひとつは「ガンダム」「ガンプラ」「プラモ」というコンテンツ軸が一貫していたことではないかと、小山さんは語った。中野エリアにアニメ関連コンセプトの飲食店は数多いが、意外にも「ガンダム」「ガンプラ」をテーマにしたバーは「プロフェッサーTK」だけだという。 「ガンダムバー自体は全国に結構あるんですけど、ガンダムという作品自体が好きな人か、(アムロやシャアなどの)キャラクターに惹かれて入ってきた人か、『エクストリームバーサス』みたいなゲームが好きな人かで、狙いがかなり変わってきます。僕はプラモのコレクターだから、ガンダムの店というより『ガンプラの店』『プラモデルの店』とずっと言い続けてきて、ブレなかった。そうしたコンセプトが最初に固まったのが良かったんじゃないかな」 また、ガールズバー的な方向にシフトし過ぎて、コンセプトの主軸が迷走してしまう店も多いらしい。そうしたこともなく、店舗の雰囲気が安定していたことがプラスに働いたのだろう。 加えて、小山さんは自身について「僕って意外とオタクとして『薄い』んですよ」とも語っている。正直、筆者からはとてもそうは見えないのだが……しかし、ここにもオタク相手に接客業を続けてきたゆえの、小山さんの配慮が見て取れた。 「分からないことは分からないし、自分よりずっと造詣の深い人達を相手に、知ったかぶりをしないことは10年心掛けてきた。だから本当のプロの方も来てくれたんじゃないかと思ってます。僕は逆にど素人で良かったなと」 常連客のなかには小山さんより年上で、小山さんよりガンダムやプラモへの知識や造詣が深い、より「濃い」オタクも珍しくない。そうした人々に過度な私見や熱をぶつけ過ぎず、フラットな目線で接しているからこそ、この店は数多のガンダム・ガンプラオタクが自由にくつろげる受け皿として機能していたのだ。

閉店後のコレクションの行方は…

中野 プロフェッサーTK

店内にはガンダム以外のプラモコレクションも保管されている。中には相当なヴィンテージ物も……

「プロフェッサーTK」閉店の理由については、契約上の都合でテナント利用の更新が困難になったことや、年齢面・家庭面の事情など、いろいろな背景があると小山さんは言っている。閉店の期限は既に決められており、それまでに店内を撤収可能な状態へキレイに片付けなければならない。 店内物品の処遇については前述のとおり未定とのことだが、どうすべきかの方針やイメージについて尋ねてみたところ、客が作ったガンプラ類はなるべく作った客へ返却するが、どうしても止むを得ないものはホビーショップに売却することも検討しているそうだ。 「中野であれば、ブロードウェイ内の「まんだらけ」さんに出張で来てもらえばいい。プレミアが付いているものは相応の価格で買い取ってくれるから、そこはやっぱ中野のメリットって感じですね」 以前も2020年以降のコロナ禍当時、店舗収入の激減を補填するために、貴重なコレクションの一部を売却せざるを得なかったという。 「今でも多いけど、以前はもっと山脈のようにガンプラが積んであったんです。当時は今以上にガンプラが品薄だったから、すごく高く買ってもらいましたよ」 そうしたなかで「『これだけは売りたくなかった!』という品はありますか?」という、コレクター相手には若干イジワルな質問をしたところ、本当に持っておきたい家宝クラスのものは手放すことなく、しかるべき場所に保管しているとのこと。 「そういう物はもう絶対に売りたくないから、ちゃんと家に抱き抱えてありますんで、棺桶に入れてもらおうと思ってます(笑)」 一方、客が作ったガンプラを返却するのは後のトラブルにならないようにするため。だが、小山さんが頼んでもなかなか持って帰ってくれないという。客としても、ガンプラをお店に預けた時点で「このガンプラはお店のもの、皆のもの」という気持ちが働くのだろうか。
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一流業界人と一介のオタクが一緒になって遊べる店だった
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東京都在住。2024年にフリーランスとして独立し、ライター業およびイラスト業で活動中。ライターとしては「Yahoo!ニュース」「macaroni」「All Aboutニュース」などの媒体で、東京都内の飲食店・美術館・博物館・イベント・ほか見所の紹介記事を執筆。プライベートでも都内歩きが趣味で、とりわけ週2〜3回の銭湯&サウナ通いが心のオアシス。好きなエリアは浅草〜上野近辺、池袋周辺、中野〜高円寺辺りなど。X(旧Twitter):@Dejavu_Raw
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