更新日:2025年04月21日 15:55
ライフ

「人を選ぶ宿なので注意」というGoogle口コミがある旅館を直撃。オーナーと話してわかった「愛されている理由」

鉄製の階段を降りていくと、広大な空間が

天然水晶洞(湯沼鉱泉旅館)

入口から階段を降りていくとかなり広大な空間が待ち受けていた

 入館料を払うと簡単な地図が描かれた紙を渡される。やや上りの山道を歩くこと10分。細い廃トンネルのような入口が見えた。「坑道跡を利用した博物館」という口コミがあったが、オーナーの山中忠夫さん(2024年の訪問時80歳)の話では、天然の水晶が地面に露出していたので重機で周りを掘り、その後鉄骨屋根で覆ったそうだ。  錆だらけの支柱を見つつ、薄暗いなか鉄製の階段を降りていく。そこにはかなり広大な空間が広がっていた。天然水晶をはじめ各種鉱物が大量に展示されている。とりわけ貴重なのが日本式双晶というハート型の緑水晶で、この川上村でしか見つかっていないという。   ただ、ところどころ電気が消えていたり、非常に詳しい鉱物説明書きがあちこちあるものの、汚れて字が読みづらいものが多く、全体的に古びている。もう何年も時が止まっているかのような、なんともいえない不思議な空間だ。水晶がキラキラしている細長い天然洞窟のイメージはすでに完全に崩壊している。スマホのライトだけだと心もとないので、ハンディライトは持参した方がいいかもしれない。

愛されている理由がわかった

天然水晶洞(湯沼鉱泉旅館)

オーナーの山中忠夫さん。従業員の高齢の女性からは「社長」と呼ばれていたが、控えめというか穏やかでいい人だった。猫は3匹ほど見かけた。他に川上犬も2匹いる

 洞内にはさらに「水晶岩窟」というものがある。ここには先客がいるので先に忠告しよう。足を踏み入れるとビックリしたコウモリが飛び回って心臓が止まりそうになる。じっくり見て回ると30〜40分以上はかかるかもしれない。洞窟から出たら100年経過していたとか、別世界でスライムになっているかもなど、出口に向かう途中妄想がいろいろ湧いてくる。  オーナーはもともと家業を引き継ぎ農家として働いていた。農地を広げている時に水晶を発見。半世紀ほど前、32歳の時にこの博物館をオープン。それから15年ぐらいは人がたくさん来た。バーベキュー場もあり、森の中には池があってスワンボートも楽しめたという。その後はかなり寂しくなってしまって、ごくたまに鉱物マニアが泊まるくらい。  その宿も、訪れた時は水回りが故障したままで鉱泉も利用できず、宿泊者には村内の共同浴場を使うように言っているとトーンが下がる。たまに鉱物の話になると語気がいくぶん強くなるが、それ以外は穏やかで優しい口調。時折、猫が横を歩いていく。万人受けはしないだろうけど、愛されている理由がなんとなくわかった。水回りその他不安はあるけど、宿泊・博物館見学希望者は電話で確認を。 <TEXT/関口勇> 【天然水晶洞(湯沼鉱泉旅館)】 〒384-1404 長野県南佐久郡川上村居倉293 0267-99-2771(日中は病院通いで不在の場合もあり) 天然水晶洞:入館料500円 宿泊:6,500円(ただしお風呂が使えない場合は6,000円。宿泊者は入山料・博物館入館料が無料)
『ワンダーJAPON』編集長(フリーランス・発行元はスタンダーズ)。廃墟、B級スポット、巨大構造物、赤線跡などフツーじゃない場所ばかり紹介。武蔵野美術大学非常勤講師。X(旧Twitter):@isamu_WJ
1
2