仕事

“日給7500円のバイト先”で見た地獄絵図「仕事を覚えられず、毎日殴られる同僚」「やる気がないバイトは病院送りに…」

“簡単な仕事”ではあったが…

「千馬君、今日はこれ全部箱に入れてもらうから。とりあえず見せるね」 そう言って社長は段ボール箱に50枚数えながら切り身を入れ、その上からビニールを被せて同じ手順をもう一度繰り返した。「100枚入れたらこの箱は黄色いテープでふたして台車ね。これだけ、簡単でしょ?」そう言ってそのまま出ていった。 横で聞いていた小林さんが「僕は他の社員と隣の作業場にいるから切り身の数が合わないか、終わった時に声かけてね!」と出ていった。そうして作業台には僕だけが取り残された。 作業自体は説明の通りで難しくなく、黙々と3時間ほど作業を続けていたら全てを箱に詰め終わった。ボケっと立っていても時給は出ないので、小林さんに声をかけにいくと、そこには怒号が響いていた。

同僚が凍った海老で殴打されていた

「山下さあ! いつになったら作業早くなんだよ!!!!」 そう言いながら、とうに還暦を過ぎたであろう同僚山下さんを冷凍された海老で殴っている。飲食で大型の海老を扱った方には伝わると思うが、凍った海老は単に硬いだけでなく鋭く尖っている箇所もあり、それで人を殴ったら殺せてしまう鈍器のような食材だ。山下さんは抵抗するでもなく、ただ足をガタガタと震わせながら「痛た……すみません」とうつむいていた。 声をかけられずに立ち尽くしていると、僕の気配に気が付いた小林さんが「千馬君、もう終わったの? じゃあもう作業終わりだし煙草吸いに行こうか!」とはにかんだ。その爽やかな笑顔のさっきまで老人を海老で殴打していたのと同一人物とはとても思えずぞっとした。いち早くこの職場を離れたがったが、誘いを断ったら殴られるかもしれないと思い、にっこりと笑って首を縦に振った。 喫煙所に着くなり「千馬君さあ、山下の代わりに社員やらない?」と言ってきた。聞くと山下さんは5年間ほとんど仕事を覚えられずに毎日ああして殴られているらしい。その真剣な眼差しに思わず「もう何度かバイト来てから決めてもいいですか?」と答えてその場を後にした。 そうして帰宅する頃には7500円が振り込まれていて、バイトとしては楽だしもう少し継続的に行ってみるかという気持ちになった。この気の迷いが地獄の始まりだったのは後に知ることになる。
次のページ
「週休2日で28万円」の条件につられて…
1
2
3
4
5
小説家を夢見た結果、ライターになってしまった零細個人事業主。小説よりルポやエッセイが得意。年に数回誰かが壊滅的な不幸に見舞われる瞬間に遭遇し、自身も実家が全焼したり会社が倒産したりと災難多数。不幸を不幸のまま終わらせないために文章を書いています。X:@Nulls48807788
記事一覧へ