阪急電鉄の広告炎上… “やりがい搾取”の現場は「肩書き与えて時給50円アップ」
毎月50万円もらって毎日生きがいのない生活を送るか、30万円だけど仕事に行くのが楽しみで仕方がないという生活か――そんな2択で問われたら、あなたはどう思うだろうか。
「ちょっと待ってくれよ、俺は毎月30万円ももらっていないのに生きがいのない生活を送っている」と思う人もいるのではないか。あまりにも現代の価値観や給与事情にそぐわない、「働く人への啓蒙」メッセージを掲載した阪急電鉄の中づり広告が炎上。
<毎月50万円もらって毎日生きがいのない生活を送るか、30万円だけど仕事に行くのが楽しみで仕方がないという生活と、どっちがいいか。 研究機関 研究者 80代>
これに対して、20代~30代から多くの非難の声があがった。
それもそのはず、2018年に転職サービス「doda」が登録者約36万人(正社員)のデータを集計した結果によると、20代の平均年収は346万円でこれは月収にすると28.3万円、30代の平均年収は452万円、これは月収にすると37.6万円だ。
この月収は単純に年収を12で割っているため、ボーナスなしの金額。ボーナスが支給される会社であれば、月あたりの「手取り」がさらに下がることは容易に想像できる。
そのため、この広告に掲載された80代男性の「言葉」はあまりにも時代にそぐわない。さらに、毎日30万円にも満たない月収でツラい労働環境にいる若者の感情を逆なでする。
他にも、<私たちの目的は、お金を集めることじゃない。地球上で、いちばんたくさんのありがとうを集めることだ。 外食チェーン経営者40代>という、どこかの居酒屋チェーンの社長の言葉のようなものまであり、給料よりもやりがい重視、まるで“ブラック企業”のような搾取の構造に、ネット上では「ありえない」という声が噴出した。
「まさに、やりがい搾取……自分の大学時代のブラックバイトを思い出しました」
そう語る佐藤さん(30代・仮名)も阪急電鉄の中づり広告を見て気分を害したというひとりだ。彼が経験したあまりにも過酷なバイトの実態とは――。
「目的はありがとうを集めることか……いかにも青春っぽく見せかけつつ、やりがい搾取するブラックな仕事って実は飲食店に多いんですよ」
大学時代、駅近くの大手コーヒーチェーン店でアルバイトをしていた佐藤さん。のんびりとラクそうなイメージがあるかもしれないが、朝は通勤客で混雑するとても忙しい店舗だったという。
そんな状況にも関わらず、佐藤さんは人件費削減のために、開店準備の朝5時半から数時間、なんとワンオペ状態を強いられていた。数年前に牛丼チェーンが深夜のアルバイトのワンオペで問題になったことも記憶に新しい。人が少ない時間帯の深夜でさえ問題になったのだから、朝の通勤ラッシュ時にワンオペと聞けば、その過酷さは想像に難くない。
「この店では大学生のアルバイトにも“マネージャー”という肩書きを与えるんです。時給は50円上がりますが、肩書きがつくと、残業代が出ません、というか、『残業はタイムカードを押してからしろ』と店長から言われていました。
業務内容もほぼ社員と同じ内容をこなさなければなりませんが、絶対に時間内に終わらない(店内を完璧に整えてからでないと次の時間帯のマネージャーに引き継げないという暗黙のルールがあった)ので、だいたい2時間ぐらいは毎日サービス残業していましたね」
結局、多くの批判の声を受け、阪急電鉄は広告を取りやめることを決定したが、その背景には多くの“やりがい搾取”の現場が隠されていた。
時代にそぐわない言葉に若者から非難の声が殺到
若者の“責任感”を逆手に利用「そういうものだと思い込んでいた」
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インタビュー・食レポ・レビュー記事・イベントレポートなどジャンルを問わず活動するフリーランスライター。コンビニを愛しすぎるあまり、OLから某コンビニ本部員となり店長を務めた経験あり。X(旧Twitter):@KA_HO_MA
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