大谷入団の殺し文句は「イチローは18歳で渡米してイチローになれたか?」
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【参考バックナンバー】
大谷翔平は日本球界で正解か? https://nikkan-spa.jp/345188
<取材・文・撮影/NANO編集部>
海外サッカーやメジャーリーグのみならず、自転車やテニス、はたまたマラソン大会まで、国内外のスポーツマーケティングに幅広く精通しているクリエイティブ集団。「日刊SPA!」ではメジャー(MLB)・プロ野球(NPB)に関するコラム・速報記事を担当
日本ハム球団が、大谷投手を翻意させた資料が球団HPで公開され、一時は球団のサーバーがダウンするほど注目を浴びている。
そんななか思い出したことがあるーー。
数年前の夏、その年の全米ドラフトで一巡目指名を受けた前途有望なアメリカ人投手と球団のやり取りを、幸運にも聞くことができた。
出会いは、とある田舎町のシングルA級(日本の5軍や6軍に相当するクラス)の野球場。マイナーリーグ球団の経営視察が目的で、数日滞在していた所にひょっこり現れたのが、金の卵のドライチ君だった。
聞けば、新入団選手たちのレポート(集合日)は明日だが、ドラフト1位の彼だけは、一日早く来るよう、連絡を受けたのだという。
程なく、球団幹部と育成担当の責任者が現れた。2人はシングルA級のスタッフではなく、遠方からやって来たメジャー球団のスタッフだった。ドライチ君と挨拶を交わした3人は、隣の部屋でミーティングを始めた。
地震の少ないアメリカのスポーツ施設は、簡素な造りが多い。シングルAの田舎の球場などは、部屋数も限られていたのだろう。簡単な衝立てを挟んだだけの隣の会話は、筒抜けだった。
幹部たちはドライチ君に対して、丁寧にオリエンテーションを続けた。面白かったのは、「グランドに立てばドラフトの順位など関係ない実力の世界、とはよく聞く話だが、ルーキーリーグやシングルAでは相手は君の指名順位を意識してシャカリキに向かって来るだろう。だからそこを逆手にとって、君は落ち着いて普段どおりのピッチングをすれば良いんだよ」という話。
今にして思うと、まるで実写版『グラゼニ』のような内容だった。
選手の昇格・降格の人事権はマイナー球団にはなく、メジャー球団が握っていること。エージェント(代理人)はクラブハウスやフィールドに絶対入れないこと。チームメイトやメディアとの関係を良好に保つことなど、この世界の「意外と知られざるルール」のレクチャーや、選手の「能力」「筋力」「精神力」は、三位一体というよりジャンケンポンのような関係だ、という話は隣で聞いていて参考になることが多かった。
さらにはこんな話も。
「遠征先のホテルの部屋は、シングルA、ダブルA級は相部屋が基本。ルームメイトが夜な夜な女性を連れ込んで情事に及ぶこともある。そういう時は、数十ドル(数千円)を払って、個室を別に取ってもらえば済む問題。意味のあるお金の使い方をすれば、余計なストレスもかからないからな」
ここで何を言いたいのかと言えば、素直でまじめな性格と評判の18歳の大谷投手には、弱肉強食のアメリカ野球はちょっとばかり”ワイルド”な気がしていたので、今回の日ハム入団の決断には、大いに賛成したい。
日ハム球団が総力を挙げて作成した『夢への道しるべ』は、多少の突っ込み所はあるにせよ、18歳の大谷投手の立場になって読めば、非常に秀逸な資料だと思う。
特に「イチローは、18歳から渡米してもイチローになれただろうか?」(P.23)の一行は、殺し文句として十分機能したのだろうと察する。
ブラックボックスの多い日本のドラフト制度に、リスク承知でその年の最も評価の高い選手を一位指名する姿勢を貫き、さらには資料公開という「可視化」で一石を投じた日ハムの経営戦略は、様々な面で遅れを指摘されている日本球界にとって、大谷投手の入団と同じくらい意味のある事だろう。
ただし、アメリカ球界にも、彼ら独自の工夫を凝らしたやり方で、トッププロスペクト(有望株)の若手選手を育成する、優れたシステムがあることは知っておいて損はないと思う。
ところで昨年のドラフトでも菅野投手と対面できたら、日ハムはこんな感じでプレゼンしていたのだろうか?
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