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アベノミクス効果で、国内でも「クリスマス・クルーズ」戦争始まる

長岡努氏

長岡努氏

 まだまだ実感が伴わないという人も多いと思われるが、いわゆる「アベノミクス効果」で多くの経済指標が好転してからは初めてとなる、本格的な“クリスマス商戦”の季節が到来した。百貨店業界や外食産業などでは、顧客の“プチぜいたく”志向が広がっていることから、比較的自由にお金の使えるシニア層全般を狙った「高価格帯」の商品の選定やメニュー開発が一層進んでいるが、クリスマスの夜の過ごし方にも“プチぜいたく”の波が押し寄せそうな気配だ。  旅行代理店関係者が話す。 「12月の『クリスマス・クルーズ』のプランに関しては、各社とも昨年に比べてかなり早い段階から問い合わせが入っているようです。そもそも今年は1990年代に次ぐ“第2のクルーズ元年”と言われるほど注目された年。これまで富裕層しかできないと思っていたラグジュアリーな船の旅を、比較的低予算で利用可能になったことから、多くの人たちに認知されたという点が大きいのでしょう。しかも、クリスマス・クルーズの場合、東京湾を1泊2日でグルッと1周する程度の気軽さ。アベノミクス効果? もちろん、あるんじゃないんですかね(笑)」  クルーズの旅と言って想像するのは、艶やかなパーティードレスを身にまとい、美しい夜景を臨みながらの豪華フルコース。世界各地の港を転々としながら、夜は煌びやかなダンスパーティーやカジノに興じる……そんな、富裕層にのみ許されたぜいたくな船遊びのイメージが根強いが、この旅行代理店関係者が言うように、今年に入ってからこの業界に大きな地殻変動が訪れたという。これまで多くのツアーに参加してきたクルーズライターの長岡努氏が言う。 「外国のクルーズ会社が、日本の港を回るクルーズ・プランを打ち出したことが直接のきっかけです。これまで日本のクルーズの場合、およそ1泊3万~4万円程度が相場だったのですが、外国のクルーズ会社が入ってきたことで、1泊1万5000~2万円くらいからでも乗れるようになった。つまり、10日間で15万円とかのクルーズが可能になったのです。日本では『クルーズ=長旅』のイメージが強いのでこの差は大きい。しかも、日本発着にこだわらなければ、飛行機で一度海外に飛んでそこから乗船する方法もある。日本発着のプランだと2週間で50万円以上かかるものが、1週間で予算10万~20万円程度あれば事足ります。クルーズの場合、基本3食食べ放題で、船によってはアルコールもFreeという場合もある。しかも、地中海のクルーズ会社だと通常大人2名の部屋に、高校生の子供2人まで無料というサービスもあるため、実はファミリー層にも打ってつけのレジャーでもあるんです」  確かに、「第2のクルーズ元年」と言われるだけあり、2013年を機に、米カーニバル・コーポレーション傘下のプリンセス・クルーズが「サンプリンセス号」を投入し、7コース・9航海のクルーズをスタートさせたのを皮切りに、HISの関連会社クルーズ・プラネットが、伊コスタ・クルーズ社の「コスタヴィクトリア号」を1隻丸ごとチャーターし、日本一周プランを始めるなど、まさに“黒船ラッシュ”の様相を呈している。  最近でも、オードリー・ヘップバーンが登場するスポットCMを頻繁に見かけるようになったり、CSやBSでもクルーズ紹介番組が作られるようになるなど、認知度はここにきて加速度的に広がっていると言っていいだろう。  そんな中で迎えた“クリスマス商戦”の季節。クリスマス・クルーズを扱っている旅行代理店のホームページを見ると、各社とも「特別な夜」を楽しむために趣向を凝らしたプランを打ち出しているのがわかる。長岡氏が続ける。 クルーズ・プラン「今年のクリスマス・クルーズを見ると、2パターンあります。ひとつは飛鳥IIをはじめとした日本の高級客船による、クリスマス向け“1泊2日ワンナイト・クルーズ”といった体裁のもの。実際の就航は横浜をグルッと一周する程度ですが、ホテル仕様の洋上ディナーも楽しめる『体験版クルーズ』のようなプランです。日本船籍は食事も日本人仕様に作られているので十分満足できると思いますが、こちらはそこそこ値段も張る。ベランダのない角窓の部屋で、1泊泊まってディナー代込み1人5万円前後が相場でしょうか。これで、十分“プチぜいたく”な雰囲気は楽しめると思います。もうひとつは、思い切って海外発着便を狙う。実は、こちらのほうは面白くて、多くのプランが現地までの航空運賃込みでかなりお得なんです。例えば、ドイツとオーストリアの川を巡って、本場ヨーロッパの7つのクリスマスマーケットを巡る『アマデウス・プリンセス号』のクルーズ・プランは、成田発着の運賃込みで8日間26万8000円から。しかも、船上での食事代はすべてFree。ご当地に赴けば、多くのクリスマス・イベントも楽しますし、ある意味“穴場”です(笑)」  現在、世界のクルーズ人口は1500万人。なかでも、「クルーズ先進国」の北米に至っては、1100万人に達するとも言われている。これに対し、日本はまだ20万人程度。外国のクルーズ会社が日本に参入しようという動きも、旅行好きで知られる日本人がクルーズの真の楽しさを知れば、もっと需要を掘り起こせると考えてのことだろう。  バブルの頃のように……とは言わないまでも、久々の活気に溢れたクリスマスイブの夜、“プチぜいたく”なクルージングに酔いしれてみるのもいいのではないか。 <取材・文/日刊SPA!取材班> 【長岡努氏】 単行本やゴルフ誌の企画・編集に関わるほか、Webや週刊誌などで「クルーズ」や「温泉」「田舎暮らし」などをテーマに取材・執筆する。近著に『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』(山と渓谷社)など
温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり

湯底から湧き出す“足元自噴泉”と湯船横で湧く“自然流出泉”。北海道から九州まで、源泉かけ流しを超える究極の名湯を訪ねた温泉紀行

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