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議論ストップ? “プロ野球16球団構想”を元巨人軍球団代表・清武英利氏が語る

清武英利氏

清武英利氏(撮影/八尋研吾)

 私の放った“第3の矢”は悪魔をも倒す――。

 よほど満足のいく仕上がりとなったのか? 安倍晋三首相は、6月30日付の英フィナンシャル・タイムズ紙電子版にこんな自画自賛の論文を寄稿した。

 ここで言う“第3の矢”とは、言うまでもなく、6月24日に政府が閣議決定まで漕ぎ着けた「『日本再興戦略』改訂2014 ―未来への挑戦―」と題した新成長戦略のこと。法人税の実効税率を「20%台」まで引き下げるという数値目標を明記し、130兆円もの資金を誇るGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)改革や、女性の活躍推進を約束するなど、安倍首相が肝煎りで推し進めていた目玉政策がいくつも並ぶ、まさにアベノミクスの集大成と言っても過言ではない代物だ。

 ただ残念なことに、かねてからこの新成長戦略に盛り込まれると期待されていた「プロ野球16球団構想」が、人知れずリストから外されていたことはあまり報じられていない。

 今回の新成長戦略策定に向け、5月末に自民党の日本経済再生本部(高市早苗本部長)が出した「日本再生ビジョン」では、地方の活性化推進の一環として、「地域に本拠を置くプロスポーツチームの隆盛は、地域意識を高揚させ、さらに大きな経済効果も生み出し得る」と提言。現行の「2リーグ12球団」という枠組みを見直し、プロ野球チームが不在の静岡県、北信越、四国、沖縄県といった地域を念頭に、新たに「4リーグ16球団」に増やすことも選択肢の1つとしていた。

 だが、このサプライズ提言発表の直後、アベノミクスの旗振り役である甘利明経済再生担当相が、「政府が強引にかじを切ることでもない」と否定的な考えを示唆。安倍政権の「後見人」でもある渡邉恒雄読売新聞グループ会長も、かねてから「1リーグ制」を唱えていることもあり「現実的ではない」という見方もあったが、果たして、本当に絵に描いたモチに過ぎない提言だったのか……?

 元巨人軍球団代表・清武英利氏が話す。

「巨人軍のGMを務めていた頃から、『プロ野球の裾野をもっと広げるべき』というのが私の持論。今回話が持ち上がっていた“16球団構想”が閣議決定に盛り込まれなかったことは残念ですが、いろいろな可能性を秘めているし、政府には引き続き議論してもらいたいですね。ただ、安倍首相の“後見人”を自認する渡邉(恒雄)さんの意向が働いたのかどうかはわかりませんが、彼はむしろ球団を減らしたがっていましたから……」

“16球団構想”には経済的メリットが期待できるのは言うまでもなく、ほかならぬプロ野球界全体にも、多大な恩恵をもたらすと清武氏は強調する。

「そもそも、16球団構想には2つの効果があると思います。1つはファンの視点でプロ野球そのものの裾野を広げるという点。経済効果や地域活性化といった新成長戦略が掲げる目標にも合致します。外資導入や参入条件の緩和も検討の時期に来ている。地域密着という観点では、大成功を収めたサッカーに比べて、残念ながら野球が遅れを取っているのは間違いがない。つまり、運営の仕方、リーグの作り方の差が大きいのですが、若年層を取り込むという意味でも、子供の頃に身近に見たものって忘れないじゃないですか。この点、プロ野球は大都市の子供しか観ることができないうえ、地上波のテレビ中継もどんどん減っている……」

 サッカーW杯日本代表はグループリーグ敗退を喫したものの、やはり、W杯イヤーにおける“キラーコンテンツ”ぶりは目を見張るものがあった。これに対し、2008年の北京五輪を最後に正式種目から外された野球は、五輪に代わる国際大会として育てていきたい「ワールド・ベースボール・クラシック」もまだまだ課題が山積している状況。当然、日本のプロ野球がいまひとつ元気がない要因のひとつとなっているが、今回ブチ上げられた“16球団構想”は、そんな球界復権のきっかけにも十分なり得るのだ。

「もう1つの効果は、選手の視点で雇用の確保が図られる点です。現行28人の1軍登録枠が、4球団増えれば112人。2軍も含めれば、実に数百人規模の雇用が新たに生まれることになり、引いては、選手寿命を長くすることにも繋がるはず。現在、プロ野球の球団は実質、経営は親会社頼りですが、黒字化への最大のネックは選手年俸です。つまり、年俸を安く抑えることができれば、新チームをつくること自体それほど難しくはないのです」

 各球団の年俸総額は巨人が45億円超と突出し、最安の広島はその半分以下の20億円余(夕刊フジ調べ)と言われている。とはいえ、最低でも20億円とされる巨額の資金を一度にポンと出せる親会社が今どきどれほどあるのか……? といった疑問が拭えないのも事実だ。だが、この点についても清武氏は「秘策」があると話す。

「まずは『安価な年俸でもいい』という選手を集めればいい。当初の年俸が安いからといって、優秀な選手ではないというわけでもない。新球団ができれば、現役を引退してやむなくほかの業界に転身した人をスカウトに登用するなど、人材の有効活用にもなります。実は、来季に1球団つくろうとすれば、簡単にできてしまうんですよ。毎年、プロ野球のトライアウトには60人ほどの選手が集まってくる。例えば、トライアウト組だけの新球団をつくるのも1つの手。彼らは1軍登録枠の28人からは漏れたかもしれないが、実力的には29番目、30番目という選手も少なくない。結果を出せば、また高い年俸を勝ち取ることもできるのだからモチベーションも高い。仮に、新設チームが弱かったとしても、お客さんは負けるから球場に足を運ばないわけじゃない。2000年代前半に、生涯戦績で109連敗し話題となったハルウララ(高知競馬)という馬がいましたが、そういう球団があってもいいじゃないですか」

 実際、昨シーズン巨人から広島に放出された一岡竜司投手は、今年開幕1軍入りを果たし、来たるオールスターへの初出場も決めており、新球団創設された暁には、一度干された選手たちの再生の道がさらに広がることは間違いない。

 だが、年俸の問題をクリアしてもネックとなるのが「リーグ分け」だ。現在の球団経営が、巨人、阪神、ソフトバンクなどの人気球団頼みなのは否めず、球界に隠然たる影響力を持ち続ける“独裁者”・渡邉恒雄氏も「1リーグ10球団」が持論だからだ。

「4チーム×4リーグとなると、巨人や阪神など人気チームをどのリーグに所属させるかでゴタゴタが始まる。人気球団と同リーグになれば、観客動員や放映権収入の増大など、恩恵に預ることもできるので、どこの球団も一緒にしてほしいのが実情です。結局、球団の新設そのものではなく、リーグ分けが問題なのです。言い換えれば、野球界全体のことを考えるか、自分たちの球団のことのみを考えるか、ということでしょう。新しいことを試みれば、“独裁体制”に風穴を開けられるかもしれないのですが……」

 明大の大型新人・一場靖弘投手の獲得を巡って起きた裏金問題で、渡邉氏が鳴りを潜めた翌年の’05年にセ・パ交流戦がスタートし、新球団・楽天が誕生している。

 球界が政治に翻弄されるのは本意ではないが、“16球団構想”の可能性についてはもう少し議論を続けてほしいものだ。 <取材・文/日刊SPA!取材班>




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